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  • Volume 42

TOVE LO
トーヴ・ロー

MELITTA BAUMEISTERのトップスとスカート、MARC JACOBSのシャツ、MAISON MARTIN MARGIELAのブーツ、J. HANNAHのリング、スタイリスト私物のイヤリング

過激なまでに実直なシンガーソングライターが、大ヒット曲の裏に秘められた想いを語る。
Words by Tara Joshi. Photography by Emman Montalvan. Styling by Annie & Hannah. Set Design by Kelly Fondry. Hair by Preston Wada. Makeup by Nick Lennon.

エバ・トーヴェ・エルサ・ニルスソンが15 歳のとき書いた短編小説は、賞を獲得している。それは、ボーイフレンドができて疎遠になってしまった 大親友のストーカーになる少女の話だ。最終的に主人公は「親友を近くに 置いておくために」殺してしまうというものだった。トーヴ・ローの芸名で 知られる快楽主義者のポップスター、ニルスソンは、この物語を思い出しながら笑っている。「かなり暗い話でした」と彼女は認めた。「でもユーモア はありました。こういう物語に対するスウェーデン人のリアクションは 『イェーイ!』って感じです。私が書いたストーリーのほとんどは、ゆがんだ女の子の話でした」

10 年前に“Habits (Stay High)”が予想外にヒットしたことでブレイクしたニルスソン。それ以来、彼女はおもに、逸脱感と違和感を抱える「ゆがん だ」女の子たちについて歌ってきた。35歳のシンガーソングライターである彼女が、長い間「スウェーデンでもっとも悲しい女の子」と呼ばれてきた のには、やはり理由がある。彼女の音楽は、ドロドロした快楽主義を探求し てきた。喜びや高揚感、現実逃避、官能性だけでなく、より複雑で苦しい裏 の部分も含めて表現してきたのだ。

“Habits”がインターネットで大流行し、彼女自身がスターダムにのし上 がる前は、他のアーティストに曲を書くことでキャリアを積んだ(デュア・ リパ、チャーリー・XCX、ロードなどに楽曲を提供している)。そしていまでもそれを続けている。けれども自分自身のために書いた曲には、提供す る楽曲よりも、強い個性が表れている。刺激的で官能的な雰囲気が漂い、ド ラッグや堕落のイメージがつきまとう。そしてこれらの歌詞は、彼女の現実 の生活に根ざしたものでもある。作り上げられたパーティガールのような ペルソナではなく、彼女の本心や体験を垣間見ることができると彼女は説 明する。もちろん、曲の中ではときには誇張され、実際よりも大げさに描か れている。

最初の4枚のアルバムは大手のレーベルとの契約だったか、ニルスソン はイメージやスタイルの決定権を保持することに慎重だったと話す。「駆 け出しの頃は、自分自身を表現するのが本当に難しかったです。ファーストアルバムは、自分という人間をどう表わしたらいいのかわからなくて。で もレーベルの意向に従って、商業的な成功のためのビジュアルにしたくない という気持ちがありました。だからその反対の『左』側に進もうとしました」

こう話すように、この取材中のニルスソンはつねに思慮深く、そして元 気がよかった。ツアーの真っ最中の彼女は、この日フロリダ州オーランド に滞在していた(「ディズニーワールドの近くに泊まっているのでとても シュールです。一帯がファンタジーの国みたいな場所です!」と興奮気味に 言った)。けれども、2016 年のセカンドアルバム『Lady Wood』、そして2017 年のサードアルバム『Blue Lips』をリリースした頃は、精神的にあまり良い 状況ではなかったと語る。「本当の自分を隠したくない、と感じていたのだ と思います。だから当時の自分の人生をそのまま表現しました」。アルバム のリリースに合わせて制作した短編動画では、彼女は再び「左」へと突き進 んだ。仲間や恋人たちと夜遊びや大騒ぎする様子を描き、淫らで怪しげな 独自の世界観を確立した。「今となっては、あの映像を直視できません。作 品としては美しいですし、よくやったと思います。でも見るのはつらいし、 自分が当時どれほど暗い時期を過ごしていたのかを知るのもつらいです」 と彼女は振り返る。

最近の生活は、20代の頃とは少し違っている。現在はLAを拠点に活動 し、クリエイティブディレクターのチャーリー・トワドルと結婚している。 「ここ何年も、本当に良い状態が続いています」と彼女は淡々とした口調で 言った。しかし年齢を重ね、(彼女自身も驚いているようだが)配偶者を得 たことで彼女のライフスタイルが一変したというわけではない。その証拠 に、クラブでの大ヒット曲“2 Die 4”の2022年のミュージックビデオでは、 ニルスソンは金のコルセットとペニスバンドを身につけ岩場を歩き回って いる。彼女ならではの遊び心が健在だ。そしてこのような行為は、「娼婦の ようなあなたと一緒にいたいと思う男性なんていないんじゃないかって 心配になりませんか?」というような質問を長年投げかけてきた男性記者 たちに対して、中指をつき立てているのだ(そしてありがたいことに、近年 ではそのような質問は不適切だということを、彼らが学んだことは明らか だと彼女は言う)。

「暗い状態に陥っていても、 それを忘れるために 羽目を外したりしません。 自分の心の中で解決しようとします」

ニルスソンも彼女の友人らも彼女の夫も、いまだに派手に遊ぶことは大 好きだ。そしてその生活はこの先も続くと考えている。けれども、以前と比 べて健全な遊び方をしているという。「たとえ私が暗い状態に陥っていて も、それを忘れるために羽目を外したりしません。自分の心の中で解決し ようとします。パーティやワイルドな遊びは精神的に元気なときにしま す。気分をさらに高揚させて楽しい時間を過ごしたいので」。少し落ち込ん だときは、気分転換のために外出する必要があると話すが、今では節度を 守るようにしているという。「いつも現実から逃げて、感情を麻痺させよう としていたんです…… でも、もうそんなことはしません。そのせいで破滅的 になってしまったので」。誰かのことを忘れるためにパーティで大騒ぎす ることを歌っていた“Habits”を振り返ってみても、もう痛みを感じないと いう。「あの曲は私の人生を変えたので、今は悲しい曲ではありません。陶 酔感と懐かしさを感じさせる曲になりました」

MELITTA BAUMEISTERのドレス、PANCONESIのイヤリング

「 スウェーデンでもっとも悲しい女の子」というキャッチフレーズは、LA で楽しく暮らす現在の彼女の生活とは相容れないように感じると私は彼 女に伝えた。すると彼女は「名誉の印のようにずっと身につけていました」 と言い、少し躊躇して次のように続けた。「でもアーティストとしての自分 を表現する言葉を選べるとしたら、今は違うものにしますね。正直に言え ば、そんなキャッチフレーズ、最初からつけないかも。昔の私はとことん傷 つきやすかったけれど、それがいつも『悲しみ』を意味していたわけではあ りません。幸せなときがあれば、悲しいときもある。どんなアーティストで も、どんな人間でも、同じ状態でいるわけではありません。私たちは誰でも、 視点や感情のスペクトラムが変化しているのですから」

確かに、彼女の最新アルバム『Dirt Femme』(2022年)は、スペクトラム の幅を追求した作品だ。このきらびやかなダンスアルバムには、ニルスソ ンの新たな面が生々しく表現されている。たとえば、“Suburbia”では、「So if we had a baby / You’d love that more than me?」(私たちに赤ちゃんが できたら、あなたは私よりその子を愛するの?)という歌詞があり、また陽 気なサウンドの“Grapefruit”は、実は10 代の頃に悩んだ過食症について 歌っている。けれども、彼女の音楽の普遍的なテーマ、率直であることは健 在だ。「私の歌は、人から『どうしてそんな感情を告白するの? 大きな声 で人に言うことじゃないでしょ!』と言われてしまってもおかしくありま せん」と彼女は笑う。

『 Dirt Femme』の発売から1年。彼女はこのアルバムに非常に大きな誇り を抱いている。それは、同アルバムが、彼女自身のレーベルであるPretty Swede レコードからの初めてのリリースだからだ。「自主レーベルを立ち 上げるのは、本当に大変でした。でも今のところ良い感じです」と話すが、 “Grapefruit”のような曲は、「再体験」するのがつらい曲だと認めている。 同曲をレコーディングする際は、「自分の内面すべてをさらけ出す」ことが 引き金となり、情緒不安定になってしまう可能性を懸念していた。また、す でに克服した過食症が、この曲によって彼女のイメージになってしまうと いう心配もした。けれども「自分の本能に従い続け、自分自身を『編集』せず、 書くべきことを書きなさい」という使命を感じたと話す。

とはいえ、ライブで繰り返し“Grapefruit”を演奏しなければならない精神的なつらさについて彼女は語る。「ステージによって感じ方は全然違い ます。2 カ月ごとにつらいPMS に襲われて、本当に嫌な気分になります。 PMS のせいだとわかっているのですが、その嫌な気持ちが拭えず不安で いっぱいになります。自分の顔や体、声、動きを分析して嫌になり、4、5 日 の間、自分への嫌悪感でできた小さな繭に閉じこもって過ごします。そし て『すぐに過ぎ去る、過ぎ去る』と呪文を唱えるのです。こういう状態でこ の曲を演奏しても、カタルシスは得られません。ただ、つらいだけ」。ステー ジ上で再体験をしたくないと感じるとき、彼女は観客の力を借りる。「観客 の中に、この曲をすごく大切に思ってくれていそうな人たちを見つけると、 そっちのほうを見て『あの人のために歌うんだ』と決めます」と笑った。「そうすることで、ステージで泣き出さずにすみます」

「私はとことん傷つきやすかったけれど、 それがいつも『悲しみ』を 意味していたわけではありません」

彼女の歌詞にある率直さ(不安や痛みについて歌う難しい曲や、乳首が 立つとか、パートナーにオーラルセックスを求めるというようなストレー トで官能的な歌詞)が、非常に生々しくリアルに感じられる理由は、頭の中 との戦いと充足感の探求の相互作用によるものだろう。それは彼女がス ウェーデン南部のスコーネ県で育ったことに起因していると話す。「子ども 時代に矛盾を感じたからです」と彼女は言う。母親はセラピストで、父親は フィンテック企業の共同設立者として成功していた。住んでいた超高級住 宅地では、誰もが欠点を見せずに生活を送っていた。「みんな、いつも本心 をひた隠しにしていました」。しかし彼女の家庭では、何でも正直に話し合 うことができた。「私の家族は自分たちの気持ちをオープンにしていまし た。ティーンエイジャーの頃、父とケンカをよくしましたが、最終的には父 がスマートな言い方で謝ってくれました。父は威厳があるけど、感情が豊 かで、繊細で、愛情深い人なんです」

また母親とは、率直さや、人の行動への考察が似ていると認識している。 「母の話を聞いていると、多少の違いがあるものの、似た者同士だと思いま した。私たちのコミュニケーションの取り方は、多くの痛みや苦しみを伴 いますが、同時に喜びも生まれます」と話すとしばらく沈黙し、「私はいつ も人間という存在、そして人を完全に変えてしまう愛のパワーに魅了され ています。普段は非合理的なことが、恋愛をしているときには合理的に感 じてしまう、というのは興味深いです」と続けた。

最近のリリースでは、ニルスソンは恋愛によって引き起こされる、感情 のスパイラルを取り上げている。『Dirt Femme』に収録された楽曲や2023 年のシングル“Borderline”でも一貫して歌われるテーマだ。“Borderline” では、パートナーとの関係による不安感から、さまざまな妄想ドラマを作 り出す人物の視点が描かれている。「嫉妬や不安感という気持ちが傷つけ るのは、自分自身だけ。でも私の場合は、それを友人や夫に話したり、歌に したりすることで、心の中から吐き出すことができます」。また、 “Mistaken”(2019 年のアルバム『Sunshine Kitty』に収録)という曲で描写 した「悪夢のような嫉妬に狂ったシナリオ」はフィクションだったにもか かわらず、友人がニルスソンの実体験だと解釈したことを語ってくれた。 「ライブでこの曲を演奏したら、その友人が私の夫に向かって、『彼女に何 をしたの?』って言ったんです。私が心で感じた弱さや不安を歌にしただ けなのに、まるで夫のせいみたいに聞こえてしまったんです」と言ってク スクス笑った。「これこそが人の心が持つパワーです!」と彼女は笑う。

それでも、カタルシスを得るためのツールであるにもかかわらず、作詞 は気軽にできるものではない。「私はいつも、感情を描写する音楽を好んで 聴いてきました。自分が何を目指すべきかをアドバイスするような、向上 心のある曲ではなく」と彼女は話す。「私は自分の気持ちに浸り、誰かと共 感したかったのです。だから自分が書く曲もそうなんだと思います」。けれ ども20年以上この仕事を続けているにもかかわらず、ニルスソンはいまだ に自分の能力を疑うことがある。「曲を作っていると『これは最悪だ、私に は全然才能がない。どうして私にこの仕事が務まると思われているんだろ う?』という気持ちになることもあれば『これは素晴らしい、これはすごい。 自分にこんなことができるなんて信じられない!』と思えることもありま す」。あらゆることがそうであるように、彼女が自分を奮い立たせる方法は、 「これは過ぎ去る」と自分に言い聞かせることだ。

未来がどうなるかはわからないが、ニルスソンは自分が共感できる曲を これからも書いていたいと思っている。そして自分の一部をさらけ出し、 精神力の強さを行使して心に根づいた羞恥心を払拭する。そして同時に、 リスナーを快楽的でダークなファンタジーの世界へと招き入れ、破壊的で はなく満足感を得られる方法で欲望と自律性を取り戻してほしいと願っている。

彼女の率直な言葉を引用するならば「深みがある人と尻軽女でいること の両立は可能」という意味だ。

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こちらの記事は Kinfolk Volume 42 に掲載されています

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