ルーツは、ソウルでも屈指の多文化地区として知られる梨泰院にある。ソウル唯一のモスクが丘の上にそびえ立ち、その周囲には個人商店やゴキブリの出る古い住宅、在韓米軍基地、さらにはサムスン一族やBTSのメンバーが暮らす高級住宅街が隣り合う街だ。
「Balming Tigerは、心に穴を抱えた人たちの集まりなんです」とSan Yawnは語っている。その「穴」とは、たとえば孤独や、それを音楽やアートで埋めたいという思いのこと。2017年にSan Yawnが仲間を探し始めたことをきっかけに、偶然が重なってこのにぎやかなクリエイティブ集団は形作られていった。
彼らが出会ったのは、このエリアで通称「トランスジェンダーヒル」と呼ばれる場所にある、古びたヴィラの2階の一室Trans 201だった。メンバーは、友人の友人を介して、Instagramのメッセージを通じて、あるいは後にメンバーとなる人物のSoundCloudを偶然聴いたことをきっかけに、それぞれつながっていった。「Trans 201はOmega Sapienとbj wnjnの家でした」とMudd the Studentは振り返る。「その場所はとても湿っぽくて、ダークなエネルギーに満ちていました」
「大雨が降ると、部屋の天井は巨大なニキビみたいに水を含んで膨らんでいました」とOmega Sapienは付け加える。「カビもひどかったですね。家賃はbj wnjnと折半で、全部で60万ウォンくらい。でも自分の分の30万ウォンすら払えなくて、その半分は姉が出してくれました。本当にひどい時期でした」
「私はそうは思いません」とボーカリスト、シンガーソングライター、プロデューサーでもあるbj wnjnは言う。「あの場所は青春のなかでもとくに忘れられない時間です。ゴキブリがいて、外ではクラブの騒音が鳴り響いていたけれど、それでもあの頃にしかない楽しさがありました」
こうした思い出は、Balming Tigerとソウルだからこそ生まれたものであり、作ろうとして作れるものではない形で彼らの作品に染み込んでいる。メンバー構成は変化を重ねながらも、一貫して自分たちの経験や周囲の世界に対する好奇心を持ち続けている。初期の中心メンバーとして愛されたフロントマンのByung Unの脱退をはじめ、これまでに何度かのメンバー交代もあった。しかし、あの結成初期のかけがえのない時期に育まれた喜びとDNAは今も生き続け、10年経った現在も彼らを結びつけている。
「子どものような感覚をグループとして失わずにきました」とシンガーソングライターでボーカリストのSogummはメールで語る。「飾らない、正直なシンプルさがあります」
Balming Tigerの実験精神は、単なる遊びや楽しさにとどまらず、押し付けられる規範に対する鋭い抵抗として響くことが多い。その批評性が、とりわけ韓国的な文脈を帯びることもある。たとえば2023年の“Kamehameha”のMVでは、疲れ切った会社員たちが、酒を大量に飲むことで悪名高い会社の飲み会「フェシク」で、上司に酒を飲まされ続ける姿が描かれている。一方で、驚くほど特定の場所に縛られない表現になることもある。“UP!”では、スーパーのレジ係が積み上がった商品という山を登り続け、空へと手を伸ばしていく。
「私の意見は少し違います」と、韓国、中国、日本、アメリカで育ったOmega Sapienは言う。「反抗しようとしているわけではありません。でも人に居心地の悪さを感じさせるのは好きです。活動を通して、いろいろな意見が生まれるような状態を作るのが好きなんです」
「人を居心地悪くさせることよりも、不思議な感覚を生み出したいと思います」と釜山出身のMudd the Studentは言う。「何かを初めて感じさせてくれるようなアートが好きです。それが結果的に、人を少し居心地悪くさせることもあるのかもしれません」
Balming Tigerは、半ば冗談めかして「オルタナティブK-POP」と呼ばれることもあるが、ほかの韓国人ミュージシャンにも道を開いてくれたK-POP業界に対して感謝している。彼らはSXSW、Primavera Sound、Fuji Rockといった大型音楽フェスにも出演してきた。また新しい学校のリーダーズ、現代美術家イ・ブル、タイの映画監督アピチャッポン・ウィーラセタクン、そしてもちろんBTSのRMなど、実に幅広いアーティストとコラボを重ねている。RMをフィーチャーした“Sexy Nukim”のMVは、Balming Tigerの楽曲としては最多となる2,000万回以上の再生数を記録している。
「アイドルというと、言われたことだけをやる操り人形のような存在だと思われがちです」とOmega Sapienは言う。「でもアイドル業界のクリエイティブな表現も変わってきています。CORTISのようなグループは本当に好きですね」
「ガールズグループにすごく興味があります」とプロデューサー兼DJのUnsinkableは言う。「最近は、グループというよりクルーのような存在も増えてきました。新しいアイドルグループのなかには、Balming Tigerの活動から影響を受けているんじゃないかと思うものもあります」
『Gongbu』では、韓国、そしてアジアのアイデンティティをテーマに掘り下げている。シングル“Home”は不条理さと郷愁が同居する作品で、シンセサイザーやラップ、儀式的な詠唱を織り交ぜながら、韓国の民俗音楽を想起させるサウンドに仕上がっている。モノクロで撮影されたMVは、パク・チャヌク監督の映画や写真家イ・ガプチョルの作品を思わせる雰囲気をまとい、建築家キム・ジュンオプの建築や、韓国の伝統的な婚礼儀式ハムジナビから着想を得ている。
「韓国人であること、アジア人であることとは何なのか。若い頃はアメリカのヒップホップに憧れていて、J. Coleのようになりたいと思っていました。でも今は、それは彼自身の表現なんだとわかっています。自分たちには、自分たちなりの表現がある。韓国で暮らし、自らのアイデンティティを探り続けるBalming Tigerという存在です。そうすることこそが、韓国らしさであり、自分らしくあるということなんです」