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GROWING CLOSER

絆を深める

  • Arts & Culture
  • Volume 50

友情を育むための専門的なアドバイス。
Words by George Upton. Photos by Valerie Sagura & Andriy Shurpin.

なぜ人は友だちを作るのか?

 

友情が大切な理由のひとつは、それが心を 満たしてくれるから。そしてもうひとつは、 友情が健康にとても良い影響を与えてくれ るからだ。実は、人の心と体の健康、そして幸 せを左右する一番の要因は、「どれだけ親し い友だちがいて、その関係がどれくらい良い か」なのである。
オックスフォード大学実験心理学科 進化心理学教授 ロビン・ダンバー

アリストテレスによると、人間は社会的動物 である。ただし、それは精神的な次元におけ る社会性を意味する。人間は他者との関係の 中に自己を見出し、自己理解を深めていく。だ からこそ古代社会においては「死」よりも厳し い罰とされたのが「追放」だった。「愚か者」を意 味する「idiot」が、もともと「独りで生きていけ ると思っている者」を意味するギリシャ語に由 来していることも、そのことを象徴している。
精神療法家、『The Meaning of Friendship (原題)』(友情の意味)の著者 マーク・ヴァーノン

 

大人になると友だちを作るのが難しくなるというのは、 よく知られた定説だ。なぜそうなのだろうか?

 

ほとんどの大人は、私が「アンカー機関」と 呼んでいる学校やコミュニティセンターな ど、社会的なつながりが自然に生まれる場所 から離れると、友人を作ったり見つけたりす るのが難しくなる。また、就職や恋人探し、家 庭を持つことなど、大人になってからのさま ざまな出来事により、社交の時間が減り、そ れまで友情に向けていたエネルギーを家庭 に向けるようになることもある。

さらに、パンデミック後の在宅勤務という 状況では、友人関係というミクロなつながり を築くために、より意識的に努力する必要が ある。このような機会が減ることは、社交不 安や自分を否定されることへの恐怖を助長 することにもなりかねない。真の友情を見つ けるカギは、どれだけ自分をさらけ出せるか だが、人とのつながりを築く機会が減ってい る今、初対面の人を信頼し、本当の自分を 知ってもらうのは難しいかもしれない。
臨床ソーシャルワーカー、『Here to Make Friends: How to Make Friends as an Adult (原題)』(大人になってから友だちをつくる 方法)の著者 ホープ・ヘラハー

 

どのような友だちが 「悪友」なのだろう?

 

どれほど親しい友人であっても、時には期 待を裏切られたり、がっかりすることがあ る。完璧な人間はいないけれど、どんな人間 関係にもギブ・アンド・テイクが必要だとい うことは覚えておこう。小さな衝突や不満 は、深刻になる前にきちんと向き合っておく ことが大切である。そして、もし関係がいつ も一方通行で、自分ばかりが満たされていな いと感じるなら、それは次の段階に進むタイ ミングなのかもしれない。相手が必ずしも悪 友というわけではないが、その友情が今の自 分にとってプラスとは言えない場合もある。
心理学者、「The Friendship Blog」 プロデューサー アイリーン・S・レヴィーン

友情の基本は、お互いの信頼感、精神的な 結びつき、相互依存、そして衝突の解決だと 私は考えている。友人同士に強い問題解決スキルがあれば、大抵の亀裂は修復可能だ。し かしそれでも、約束を何度も破る、信頼に問 題がある、関係が一方的、ライバル意識が強 すぎる、などの不健全なサインが見られる場 合には、その友だちを続けるべきか、考え直 す必要があるかもしれない。

しかし、その関係を終わらせると決断する 前に、自分が友人にどう接してきたかを一度 振り返ってみよう。相手に求めていること を、自分自身は果たせているだろうか。もし、 自分が期待している基準に自分自身が達し ていないのであれば、まずは自らの態度を改 めることで、関係がどのように変化するかを 確かめてみる価値がある。関係を断つのは、 そのあとでも遅くはないのだから。
ホープ・ヘラハー

 

現代社会では、遠距離やオンライン上の友人関係が多く存在する。 実際に会う時間を持つことは、どれほど大切なのだろうか?

 

友人が近くに住んでいるのなら、直接会う ことを絶対に優先すべき。でも電話やビデオ チャットが、直接顔を合わせるコミュニケー ションと同じくらい、友情とつながりの感覚 を育むことが可能だという証明も十分ある。

友情は、昔から地理的な距離を越えて保た れてきたものである。実際、政治家や作家たち が、共通の理念や知的な関心を通じて、何年も 直接会うことなく、手紙のやり取りによって 友情を育んでいたという記録が歴史に残って いる。理屈の上では、現代は昔よりも遠くにい る友人との関係を維持しやすくなっているは ずだが、実際にその数が増えているわけでは ない。人は一般的に、誰かともっと親しくなり たいと思っても、身近にいない相手のために わざわざ時間や労力をかけるのが得意ではな い。テクノロジーによって他者へのアクセス は簡単になったが、友情を維持し、育てていく には、日常的なやり取りが必要であり、それは 決して簡単なことではない。
カンザス大学コミュニケーション学教授/ 人間関係と テクノロジー研究所所長 ジェフリー・A・ホール

知人から友人へ、 そして友人から親友へと 関係が深まっていくとき、 それを後押しするのは 何なのだろうか?

 

私の研究によると、友人を作るには一定の 時間が必要だ。「知人」から「気軽な仲」になる までには、40~60時間ほどを要し、そこか ら「友人」と呼べる関係になるまでには、さら に約40時間を要する。友人になるためには、 相手のことを本当の意味で理解していると いう実感がなければならない。そのために は、自分自身をオープンにすること、また職場 以外で会うなど、出会った場所以外で時間を ともにすることが求められるのが一般的だ。 「親しい友人」や「親友」といった呼び方は、 信頼関係や親しさ、互いの思いやりや関わろ うとする気持ちがあってこそ使われるもの だ。お互いに好意を持ち合い、関係を大切に していることが前提となっている。親しい友 人がひとりだけという人もいれば、親しい友 人の範囲が広く、多くの人と深い関係を築い ている人もいるだろう。いずれにせよ、誰も が親しい友人に対して非常に大きな期待を 抱いており、同時に自分自身も相手からの期 待に応えようとする覚悟を持っている。良い 時も悪い時も、どんな困難な状況でも相手と の絆を大切にし続けることが友情の本質で あり、そのような関係を築くには、通常100時 間以上をともに過ごすことが必要とされる。
ジェフリー・A・ホール

 

最適な友人の数とは? どうすればその 数 を 維持できるのか ?

 

親友 が 5人、親しい友人 が10人。この15 人 が 私たちにとって本当 の意味 で大切 な 人 だ と 言われている。人 が一度 に管理できる人間 関係 の総数 は、友人 と家族 を 合わせて150 人 ほど 。そして友人というのは、作るにも維持 するにも非常 に 多くの時間とエネルギーを 要する。私たちは、社交時間 の40 % を「親友」 と 呼べる 5 人 に 費やし 、さらに20 % を 次 の 階 層である「親しい友人」10 人 に 充てている 。 そ れより外側 の友人との関係になると、友情 の質は低下し始める傾向がある 。
ロビン ・ダンバー

多くの女性はひとりかふたりの同性 と 感 情的 に 固 く 結ばれた友情 を 築 く傾向があり 、 一方 で 多くの男性はより広範囲 の 、やや 緩 や かな友人グループを 作 る傾向がある 。しかし 確実 に 言えることは、友人はひとりでも複数 でも 良 い。友人 は健康 や幸福、長寿、充実した 人生 に特別 な恩恵をもたらしてくれる、恋人 や配偶者とは 異なる存在である。結婚してい ても孤独 を 感じることはあるが、真 の友人 が いれば孤独ではない 、というのが 私 の主張 だ 。
UCLA心理学准教授 ジェイミー ・クレムス

 

AIと友だち関係を築くことは 可能だろうか?

 

私はこのことについて強い懸念を抱いて いる。友情の実存的な価値とは、自分が相手 にとって価値ある存在であることを知り、相 手の人生に変化をもたらせるということで ある。AIを「友だち」としてプログラムするこ とには反対だ。というのは、弱い立場の人が AIの友だちに利用される可能性があるうえ、 人間らしい気遣いや心配りが生身の友人に 向けられるのではなく、ロボットに対して向 けられるという無意味なコミュニケーショ ンにならざるを得ないからである。
ジェフリー・A・ホール

 

大した理由がなくても 誰かと連絡を取らなくなって しまうことがある。 そんな場合は、どんなタイミングで、 そしてどんな方法で再び 連絡を取るのがよいのだろう?

 

友情は、人生という川の流れに沿って自然 に移り変わっていくものである。たとえ大学 時代の友人と長く連絡が途絶えていても、結 婚や離婚、昇進といった人生の節目をきっか けに、再びつながることもあるだろう。私は、 昔からの友人とは疎遠にならないよう心が けることが大切だと考えている。友情はつね に進化や変化していくものだし、人は誰でも 広い交友ネットワークに支えられて生きて いるのだから。

たとえ遠くに離れていても、昔の友人に気 軽に連絡を取り、相手のことを気にかけてい る気持ちを伝えるのがよいと、私はいつもア ドバイスしている。たとえすぐに期待通りの 返信がなかったとしても、それが閉ざされて いた扉を開くきっかけになるかもしれない。 カレンダーやSNSで誕生日や記念日などの 大切な日を知ったときには、メッセージを 送ったり、昔の写真を共有したりするのが良 いだろう。こうしたささやかな行いが、後に 深いつながりを生むことを、私自身も何度も 経験してきたから。
ホープ・ヘラハー

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こちらの記事は Kinfolk Volume 50 に掲載されています

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