『Superbloom』が特別に感じられるのは、そ の華やかさだけでなく、アルバムが持つ過激 な世界観にある。“Ride”では『続・夕陽のガン マン』のテーマを、クラブ風の耳に残るフレー ズに大胆に取り入れ、“Mr Valentine”では恋 人に向かって「もっと、上まで上まで上ま で!」と命じる場面が象徴的だ。しかしそれだ けではなく、曲やサウンド全体を通して、アー ティストとして一段階レベルアップした印象 も受ける。フルートや弦楽器を駆使した豊か な編曲、張り詰めた艶やかなベースライン、巨 大で神々しいボーカルハーモニーをバック に、ウェアの圧倒的でときにはオペラのよう な歌声が際立つ。「自分のレコードはどれも大 好きだけど、今回はとくに歌い手としての自 分を示したかったし、私がシンガーとして仕 事を真剣にやっていることを、みんなにわ かってもらいたかったんです。
このアルバムの着想源は、出産と豊穣を司 るローマ神話の女神ユーノーの存在だったと いう。大きな力を持ちながらも、つねに混沌に 囲まれていた女神だ。ウェア自身の経験にお いても、強い欲求や野心、そして豊かさは、決 して代償なしに手に入るものではない。とり わけキャリアと子どもの両立を望む女性に とってはなおさらだ。
アルバムのなかでも感情をあらわにした “16 Summer”では、もっと子どもたちと過ご す時間があればと願うウェアの思いが綴られ る。「夢をかなえるために、何かを犠牲にして いることを私は知っている」と彼女は歌う。
「母親というものは、染みついた罪悪感と闘っているものだと思います。私もそうでし たし、その気持ちを曲に込めようとしました。 これは親だけの話ではなくて、ただ誰かと もっと一緒にいたいのに、時間が過ぎていっ てしまう、そんな感覚のことでもあるんです。 でも私には野心があるし、強い欲求もある。目 標もある。自分を追い込み、前に進もうとする ことを誇りに思っています。同時に、その裏に は犠牲もあるとわかっている。私は『すべてを 手にして、いつも最高に楽しんでいる人』の代 表のように見られているけれど、実際にはい ろいろと大変なこともあるんです」。とはい え、自分をそんなに特別扱いするつもりはな いという。「だって、ポップスターだからって 子どもの送り迎えをしているだけで褒められ るべきだとは思わないでしょう?」
ウェアは、セレブ界では珍しい存在だ。夫や子どもたちと過ごす家庭生活にしっかり根ざし、 母親や著名人たちとポッドキャストでおしゃ べりする姿も見られる。その一方で、アーティ ストとしての作品は、官能やコケティッシュ な欲望にあふれ、目を見張る輝きを放つ。年齢 差別や女性蔑視で知られる音楽業界にあっ て、これは決して簡単なことではない。女性 アーティストが私生活を赤裸々に語ることが 評価されがちななか、ウェアは別のやり方で 自分らしさを示している。自虐的でありなが ら欲望に正直で、日常の瞬間に感謝や喜び、想 像力を見出そうとする姿勢もあり、実に新鮮 だ。「今の状況に感謝していて、それを当たり 前とは思っていません。気分がどんよりして しまうときもありますが、周りにはいつも前 向きに考えられる人たちがいてくれて、それ が本当に助けになっています」
『Superbloom』は、創造力が最高潮に達した アーティストとしてのウェアの姿を描いてい る。夫や家族、友人、観客、そして自分自身と の関係を喜び、謳歌しているのだ。長年の不安 や内気さを経て生まれたこのアルバムは、世 界の喧騒を忘れさせるような、心が弾む祝祭の ような作品であり、ウェア自身が三部作の完結 編と考える『Whatʼ s Your Pleasure?』『That! Feels Good!』に続く集大成でもある。人々を 楽しませ、踊らせようとするその意図は、聴く 側だけでなく、ウェア自身にとっても必要な、 喜びに満ちた解放のひとときとなっている。
「私は『すべてを手にして、いつも最高に楽しんでいる人』の代表のように見られているけれど、 実際にはいろいろと大変なこともあるんです」