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  • Music
  • Volume 52

JESSIE WARE

ジェシー・ウェア

魅惑的で幻想的な楽曲、3人の幼い子どもたち、多忙なツアースケジュール、料理本、そして母親とのポッドキャスト。魅力的に輝くマルチタスクの達人が織りなす、さまざまな要素が激しく交差する世界へ。 Words by Tara Joshi . Photos by Raphaëlle Orphelin . Styling by Aartthie Mahakuperan. Set Design by Chloe Rood / One Represents . Hair by Patrick Wilson / The Wall Group. Makeup by Alex Reader / One Represents. Produced by by Meghan Willcox.

ジェシー・ウェアの撮影現場は華やかさであふれていた。ヘアメイク、ドレス、ゴールドとシルバーのジュエリーがちりばめられたテーブ ル。送風機代わりにブロワーが置かれ、スピー カーからはEverything But The Girlの曲が流 れる。しかしウェア自身は、その状況にあきれ たように目を大きく見開き、「このあと学校の 面談があるのに、こんなに着飾ってるなんて、 バカみたいですよね」と笑いながら言った。  現在41歳のウェアは3児の母。撮影が終わ るとすぐに、子どもたちの学校へ直行して教 師と面談する予定なのだという。こうした家 庭的な一面は、彼女の音楽が持つ官能的で輝 きに満ちた魅力と相まって共存している。 ウェアは、マーキュリー賞に2度ノミネートさ れたシンガーソングライターとして称賛され る一方、ロンドンの自宅にて実母レニーと共演 する大人気ポッドキャスト「Table Manners」 の共同ホストとしても知られる。番組ではゲ ストを招き、食と家族について語り合う。この 番組がもとになり出版された料理本『Table Manners』では、母娘はお祝いやパーティにふ さわしいボリュームたっぷりの料理を紹介し ている。

旺盛な欲望とあふれる喜びは、ウェアの中 心的なテーマだ。「私はただの欲張りなんだと 思います。人生においても、食べ物において も、あらゆることに欲張りなんです」と笑う。 ウェアの「もっと」を求める欲求、すなわち幸 福や楽しみ、快楽をより多く追い求める気 持ちは、これまでの作品の隅々にまで息づ いており、そして今作の 6 枚目のアルバム 『Superbloom』にもあふれている。ゴージャ スでマキシマリストな作風は、グルーヴ、ソウ ル、サイケデリア、ダンス、そしてディスコへ の愛をさりげなく取り入れたものだ。歌声は かつてないほど大きく、まるで解き放たれた かのように響く。ウェア自身も、それが偶然 ではないことを説明する。「私が成長したことを示しています。私はずっと自分の存在感を 少し抑えめにして、全体のサウンドのなかに 控えめに存在することを選んでいました。それが個人的な楽しみ方でした。でも、今回は思 い切り歌う準備ができました」

ウェアが注文したランチを待つ間、インタ ビューをすることができた。メイクを落とし ながら、彼女はキャリアの転機について語っ てくれた。かつては影の存在を好んでいた自 分が、ソロアーティストとして自信を見出し た経緯だ。2000年代初頭、ウェアは南ロンドン の学校でシンガーソングライターのジャック・ ペニャーテ、The Maccabeesのフェリックス・ ホワイト、Florence and the Machine のフ ローレンス・ウェルチと一緒に学んでいた。当 時は、ちょうどSNSと新進アーティストが融 合し始めた時代だった。それまではレーベル を通した活動が中心だったが、MySpaceのよ うなプラットフォームやブログによって、 アーティストが直接ファン基盤を築くことが 可能になったのだ。

サセックス大学で英文学の学位を取得後、ウェ アは当初予定していた法律の道へ進むことを 後回しにし、友人たちと台頭しつつあったイ ンディーシーンで楽しむことにした。ペニャー テの全米ツアーでバックシンガーを務めたの だ。「仲間たちとツアーに出て、モーテルに泊 まっていました。まるで映画の『あの頃ペ ニー・レインと』の世界にいるみたいな感じ。 ただ青春の思い出作りのためだけに行ったのです。いつかきちんとした仕事に就いたら、将 来の子どもたちに『ママは親友たちと世界中 をツアーしたことがあるんだよ!』って話せ るように」

それから15年が経った今、新アルバムに収 録された優しいピアノ曲“Love You”には、彼 女の子どもたちが少しだけ参加している(こ の過程を「子どもを職場に連れていくような もの」と表現している)。しかし出産前の 2009年頃はまだ、ウェアはソロでの音楽リ リースを考えていなかったと語る。ソロ活動 を決めた背景には友人たちのサポートと励ま しがあり、自ら道を歩むよう後押しされた結 果、サンファや電子音楽家SBTRKTの楽曲に 参加する話題のボーカリストへと成長した。 そして2010年には初のシングル“Nervous” をリリース。そのタイトルは、まさにウェア自 身の気持ちを象徴するものだった。

2012年には高評価されたデビューアルバ ム『Devotion』をリリースした。チャカ・カー ン、シャーデー、アーリヤへの長年の愛と、英 国ダンスミュージックへの情熱が染み込ん だ、うっとりするような艶やかなソウルボー カルが光るアルバムだ。「幸運な巡り合わせも 多かったけれど、すばらしい相乗効果もあり ました。クラブに通ったりしてよく遊んでい ました。南ロンドン出身の人が多くいて、とて もエキサイティングでした。才能あふれる 人々と同じ空間にいて多くを学べたのは、運 命だったのかもしれないと思っています」

当時のミュージックビデオでは、ウェアは 沈んだ、厳格な表情を浮かべている。今日、ス タジオ中に温かさを振りまきながら、誰に対 しても「ねえ」と話しかけるこの女性とはま るで別人のようだ。「あの頃はすごく緊張して 恥ずかしがり屋でした。いろんなことが瞬時 に一変したので。『Devotion』をリリースした ころは、本当にデビューする準備ができていたのか自分でもわかりませんでした。昔の 映像の自分は、とても怯えているように見え ます。すべてが崩れ落ちるんじゃないかと、心 底怖かったのです」

その後リリースされたアルバム『Tough Love』(2014年)と『Glasshouse』(2017年)は、 デビュー作ほどの称賛は得られなかった ものの、いずれも好評を博した。ウェアは 『Glasshouse』制作当時、疲弊し不安に苛まれ ていたと語っている。目指すべき音楽の方向 性を見失い、幼なじみである夫サム・バロウズ との間に第1子が誕生したことで、ツアーの見 通しが立たないことに苛立っていたのだ。

しかしその年の後半、ウェアは母親ととも にポッドキャスト番組「テーブルマナーズ」を スタートさせた。これは、母レニーが昔から ジェシーやそのきょうだい、そして友人たち のために振る舞ってきた、ユダヤ教の金曜夜 の夕食会をもとにした企画だ。このポッド キャストは、ウェアが本当の自分を表現する 手段を見出すうえで重要な役割を果たすこと になる。音楽活動におけるウェアは、神秘的な 歌詞や比喩に包まれたシリアスな一面を見せ ているが、「テーブルマナーズ」では肩の力を 抜き、ありのままの自分をさらけ出すことが できた。番組内でのウェアは、ゲストを温かく 迎え入れ、思いやりがあり、おしゃべりでユー モアあふれる明るいキャラクターをのびのび と見せている。

「音楽では、どこか自分を隠していられたん です。私は『憂いを帯びたシンガー』というイ メージで売り出していたけれど、正直な自分 を見せていたかというと、そうでもなかった と思います。このポッドキャストのおかげで、 もっと気楽に楽しんでいいんだと思えるよう になりました」

万ダウンロード)により、音楽のみで生計を立 てる必要はなくなると、より遊び心と喜びに あふれたアーティストとしての顔をステージ で見せられるようになった。こうして多くの 人が知っている彼女の華やかな音楽時代が幕 を開けた。2020年にリリースされた『What’s Your Pleasure?』は、時代が求めていた現実 逃避的でセクシーで陶酔的なディスコを提 供し、続く 2023 年の『That! Feels Good!』 も同様に傑出した作品となった。「『Whatʼ s Your Pleasure?』以降はアーティストとしての 自分をより深く理解できた気がします。演劇や パフォーマンスへのオマージュのようなもの で、キャラクターを演じるように音楽に向き 合い、遊び心を持って音楽に取り組むことを 許されたと感じたのです」

そう話すウェアは、いかにも芝居がかった演 出を心から楽しんでいる。ときには、やりすぎなくらいに。これまでにドラァグクイーンのトリクシー・マテルや、リアリティショー出演 者のエリカ・ジェインらと共演し、さらに『ル・ ポールのドラァグ・レース』イギリス版では審 査員も務めてきた。今の気分は、とびきりコケ ティッシュなショーを演出すること。彼女の ライブでは、マイクがそのままムチになると いう演出まで登場する。「ムチはね、絶対に外 せないんです。あれだけは」と笑いながら話す。 「ただ、もっとレディー・ガガみたいに堂々と やれたらいいんですが。うっかり自分を叩い ちゃって、素に戻ることもあります。ガガな ら絶対にキャラを崩しませんよね!」

このような親しみやすさは、ウェアの魅力 のひとつだ。視聴者やファンは、彼女が今まさ に自信を見出し、その過程を楽しんでいる姿を 目の当たりにする喜びを味わえる。「『What’s Your Pleasure?』が評価された後、こう思った んです。『自分は何をすべきかわかってい る』って。自ら主導権を握る許可を自分に与え ました。自分が創造を許されたこの世界を楽 しんでいるし、みんなをその旅に誘っている のです」

「ただの欲張りなんだと思います。人生においても、食べ物においても、あらゆることに」

 

(上) 
MAXIMILIAN RAYNORのジャケット、CFCLのスカート、JAYNE FOWLERのジュエリー

(トップ画像)
SOLACE LONDONのドレス、ALIGHIERIのイヤリング

『Superbloom』が特別に感じられるのは、そ の華やかさだけでなく、アルバムが持つ過激 な世界観にある。“Ride”では『続・夕陽のガン マン』のテーマを、クラブ風の耳に残るフレー ズに大胆に取り入れ、“Mr Valentine”では恋 人に向かって「もっと、上まで上まで上ま で!」と命じる場面が象徴的だ。しかしそれだ けではなく、曲やサウンド全体を通して、アー ティストとして一段階レベルアップした印象 も受ける。フルートや弦楽器を駆使した豊か な編曲、張り詰めた艶やかなベースライン、巨 大で神々しいボーカルハーモニーをバック に、ウェアの圧倒的でときにはオペラのよう な歌声が際立つ。「自分のレコードはどれも大 好きだけど、今回はとくに歌い手としての自 分を示したかったし、私がシンガーとして仕 事を真剣にやっていることを、みんなにわ かってもらいたかったんです。

このアルバムの着想源は、出産と豊穣を司 るローマ神話の女神ユーノーの存在だったと いう。大きな力を持ちながらも、つねに混沌に 囲まれていた女神だ。ウェア自身の経験にお いても、強い欲求や野心、そして豊かさは、決 して代償なしに手に入るものではない。とり わけキャリアと子どもの両立を望む女性に とってはなおさらだ。

アルバムのなかでも感情をあらわにした “16 Summer”では、もっと子どもたちと過ご す時間があればと願うウェアの思いが綴られ る。「夢をかなえるために、何かを犠牲にして いることを私は知っている」と彼女は歌う。

「母親というものは、染みついた罪悪感と闘っているものだと思います。私もそうでし たし、その気持ちを曲に込めようとしました。 これは親だけの話ではなくて、ただ誰かと もっと一緒にいたいのに、時間が過ぎていっ てしまう、そんな感覚のことでもあるんです。 でも私には野心があるし、強い欲求もある。目 標もある。自分を追い込み、前に進もうとする ことを誇りに思っています。同時に、その裏に は犠牲もあるとわかっている。私は『すべてを 手にして、いつも最高に楽しんでいる人』の代 表のように見られているけれど、実際にはい ろいろと大変なこともあるんです」。とはい え、自分をそんなに特別扱いするつもりはな いという。「だって、ポップスターだからって 子どもの送り迎えをしているだけで褒められ るべきだとは思わないでしょう?」

ウェアは、セレブ界では珍しい存在だ。夫や子どもたちと過ごす家庭生活にしっかり根ざし、 母親や著名人たちとポッドキャストでおしゃ べりする姿も見られる。その一方で、アーティ ストとしての作品は、官能やコケティッシュ な欲望にあふれ、目を見張る輝きを放つ。年齢 差別や女性蔑視で知られる音楽業界にあっ て、これは決して簡単なことではない。女性 アーティストが私生活を赤裸々に語ることが 評価されがちななか、ウェアは別のやり方で 自分らしさを示している。自虐的でありなが ら欲望に正直で、日常の瞬間に感謝や喜び、想 像力を見出そうとする姿勢もあり、実に新鮮 だ。「今の状況に感謝していて、それを当たり 前とは思っていません。気分がどんよりして しまうときもありますが、周りにはいつも前 向きに考えられる人たちがいてくれて、それ が本当に助けになっています」

『Superbloom』は、創造力が最高潮に達した アーティストとしてのウェアの姿を描いてい る。夫や家族、友人、観客、そして自分自身と の関係を喜び、謳歌しているのだ。長年の不安 や内気さを経て生まれたこのアルバムは、世 界の喧騒を忘れさせるような、心が弾む祝祭の ような作品であり、ウェア自身が三部作の完結 編と考える『Whatʼ s Your Pleasure?』『That! Feels Good!』に続く集大成でもある。人々を 楽しませ、踊らせようとするその意図は、聴く 側だけでなく、ウェア自身にとっても必要な、 喜びに満ちた解放のひとときとなっている。

「私は『すべてを手にして、いつも最高に楽しんでいる人』の代表のように見られているけれど、 実際にはいろいろと大変なこともあるんです」

 

 

(上) 
ISSEY MIYAKEのトップス、JAYNE FOWLERのイヤリング
(下) 
NAYA REAのつけ襟

(上) 
ISSEY MIYAKEのトップス、JAYNE FOWLERのイヤリング
(下) 
NAYA REAのつけ襟

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こちらの記事は Kinfolk Volume 52 に掲載されています

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