「加工する前と後では、まるで違います」とパコ・メリオは言い、滑らかで淡い茶色に磨き上げた籐の棒と、加工前のものを見比べる。熟練職人のメリオがいるのは、50年以上働き続けてきた家具工場。かつては母親もここで、このスペイン南東部の農村地域で広く使われていた籐のかごを作っていた。現在67歳だが、できる限り引退を先延ばしにしている。それは工場が彼にとってあまりにも家のような場所だからだ。 その工場とは、バレンシアの海岸部から内陸へ車で1時間ほどの町、モイシェントではよく知られたExpormim社の工場のことだ。1960年創業の同社は、当初、柳を使ってかごやトレー、パン入れ、ワインホルダー、間仕切り、装飾品などを製造していた。1970年代には、熱帯地域原産のつる状のヤシ科植物である籐(ラタン)へと素材を切り替えた。硬く丈夫な性質を持つ籐は、家具に必要とされる頑丈な構造を実現するのに適しており、現在では家具が同社の主力となっている。 「もともと籐は、皮をつけたまま使われていました」とメリオは話し、Expormimが長年にわたって籐の加工方法を改良してきたことを説明する。「今では、この工場で使う籐はすべて太さを揃え、皮を剥いています」。彼が見せてくれた場所には、皮を剥いた長い籐が何百本も立てて積まれている。束は太さと天然の色合いごとに分けられ、その色合いによって塗装できる色が決まる。 Expormimは1980年代から90年代にかけて成長を遂げ、技術力と生産能力を拡大しながら、幅広い層に向けて、シンプルで質の高い家庭用家具を製造していた。しかし2000年代に入ると、安価な輸入品やEコマースの台頭によって、同社のビジネスモデルは厳しい状況に直面。Expormimは中価格帯と高価格帯のどちらを狙うか選択を迫られ、デザイナーとのコラボレーションが後者への転換を後押しした。たとえば、2012年にオスカー・トゥスケッツがデザインしたFontalチェアは、籐の柔軟性を生かし、パーツを連続した曲線状に成形して継ぎ目なく編み合わせている。仕上げの細かなディテールが、この椅子を洗練されたエレガントな一脚へと昇華させている。 現在、Expormimのカタログの約90%を外部デザイナーによる製品が占めている。Expormimでいち早くシグネチャーピースを手がけた独立系デザイナーのひとり、故ミゲル・ミラをはじめ、緩やかな曲線を描く屋外用ソファBraeをデザインしたNormArchitects、最近発表されたソファMeridiesのフレームにサペリ材を用いたロベルト・ラッツェローニなどが名を連ねる。2026年の新作、ハビエル・パストールによるテーブルと椅子のLekuコレクションは、バスクの彫刻家エドゥアルド・チリーダから着想を得ている。 バレンシアを拠点に活躍する著名デザイナーのハイメ・アジョンは、Expormimの籐の高い技術に惹かれ、2014年にFramesコレクションをデザイン。同コレクションの椅子は5種類あり、皮を剥いて着色した籐のフレームに布張りの座面と、八角形の格子状に編んだ籐の背もたれを組み合わせている。このほか、フットスツール、間仕切り、2つのコーヒーテーブルでコレクションは構成される。「籐には人間味があり、柔軟性があります」と2021年にスペイン国家デザイン賞を受賞したアジョンは説明する。「流れるような軽やかなフォルムを可能にしてくれます。また、硬い素材ではなかなか得られない、楽観的で親しみやすい印象も与えてくれます」 アジョンのデザインは大胆な色の組み合わせや遊び心のあるフォルム、鮮やかなビジュアルで知られるが、FramesではExpormimのより落ち着いたスタイルを取り入れている。「Expormimの職人技と籐との長い歴史を尊重することが重要でした。それが自然と、より本質的で洗練された表現へとコレクションを導きました」と説明する。「Framesはほかの作品より控えめですが、彫刻的なライン、有機的な曲線、遊び心のあるプロポーションといった、私のデザイン言語は反映されています」 Expormimは、アジョンが「空間に線を描くようなもの。グラフィカルでありながら、温かく親しみやすい」と表現するデザインを、必要な手間と細やかさをもって形にできる稀有な存在だった。同社は現在も籐家具を手作業で製造するヨーロッパ最後の企業で、約50人の職人が、切断、成形、組み立て、張り、塗装などの工程ごとにチームを組んで作業している。大量生産され、目まぐるしく流通する機械製品があふれるなか、Expormimの職人たちは、時間をかけて丁寧にものづくりを続けている。 ただし、この工場にはひとつだけ目立った例外がある。約10年前に多くの工程を一変させた5軸CNC加工機だ。籐、木材、金属など、家具を構成するさまざまな部材に穴を開け、溝を削る。ここを担当するのが、メリオの義理の息子、モイセス・ミラレス。メリオとモイセスは、Expormimに息づく、世代を超えて受け継がれてきた職人技と知識を体現している。 世代を超えた職人たちのコミュニティこそがExpormimの中心であり、その精神を支えている。それは、創業以来、同じ一族が経営を続けてきた会社のあり方とも重なる。「ここには、祖父、父、そして私と一緒に働いてきた人たちがいます」とCEOのメルセデス・ラソは振り返る。彼女は会社の未来を支えるため、地域の次世代の職人育成にも積極的に取り組んでいる。「椅子張りや木工を教える職業訓練校と協力し、ワークショップなどを通じて、私たちのような会社で働くとはどういうことかを学生たちにより深く理解してもらう方法を模索しています。Expormimを、自分の力を最大限に発揮できる場所として見てもらうための取り組みです」。こうして身につけた技術と、時間をかけて作業する職人の手があってこそ、Expormimは工業生産と職人技の間をつなぎ、発展し続けることができるのである。 本記事は、Expormimとのパートナーシップのもと制作されました。expormim.com TwitterFacebookPinterest こちらの記事は Kinfolk Volume 54 に掲載されています 購入する デザイナーのハイメ・アジョン。バレンシアの自身のスタジオにて。 組み立て前のFramesローバックアームチェアのパーツ。 Related Stories Design Fashion Volume 37 ミシェル・ エリー 大胆な着こなしの魅力。 Design Volume 49 インダストリアル・ファシリティ 有名インダストリアルデザイナーのロンドンのオフィスに潜入。 Design Interiors Volume 44 アクセル・フェルフォールド 究極の審美眼が宿る城塞。 Design Volume 32 ピエール・ヨヴァノヴィッチ ピエール・ヨヴァノヴィッチが10年前から暮らす南仏のシャトーは、インテリアデザイナーである彼の究極のショールーム Design Interiors Volume 35 フェルナンド・カルンチョ 庭園は自然物と人工物の中間にある存在。ジョージ・アプトンがこのふたつの間を取り持つ造園家を訪れた。 Design Volume 44 ショーン・キャンティ ハーバード大教授が社会変革の原動力としての建築について語る。