生物発光(水中で生物が光を生成し放射する現象)を目撃したことはありますか?
ロス:最初に見たのは、2011 年に大西洋を漕いで渡ったときでした。水平線 が見えないほど真っ暗闇のなか、星に包まれてボートを漕いでいたんです。 水面に星が映るということは、地球が球体だということの証明です。漕い でいると、オールが生物発光の小さな渦を作り出しました。そして、ボート の下でマグロが小魚を追いかけているのに気づきました。まるでマグロの 形に沿ってクリスマスのイルミネーションライトをあしらったように 光っていました。
ヒューゴ:もう 1 回は、英仏海峡のライム湾でした。プラスチック調査のた めに大西洋の中心点まで航海するプロジェクトを終えた直後で、イギリス を周遊していたときのことです。夜中の 12 時ちょっと前にライム湾を航行 していると、突然、第二次世界大戦の映画のワンシーンにいるような感覚 に陥りました。船の舷側のまっすぐ先に、水中魚雷のようなものが見えた のです。暗い水中で、生物発光の中をイルカの群が泳いでいたのです。私が 今まで経験したなかでもっとも神秘的な海での出来事でした。
海を漕いで渡るときに、海の巨大さを実感しますか?
ヒューゴ:いいえ、海には船以外、まったく何もないので、スケール感が まったくわからなくなります。だから、すごく孤立したような気分になり ます。自分が地球にいるという実感がなくなるんです。
水は変化しますか?
ロス:水の種類は確かにありますね。イギリス海峡はターコイズブルーに 近い緑色。そして、イギリス近辺の沿岸の緑色の海が、突然カリビアンブ ルーと呼ばれる鮮やかな青色に変わる境界線があります。陸からどれだけ離れたのか、海の色でわかりますよ。
40 フィート級の波にはどう対処するのですか?
ロス:陸で 40 フィート(約12 メートル)といえばたいしたことないように思 えますが、海上ではふたつの波の頂点の間の距離が200メートル、300メートルとなります。
ヒューゴ:この間に私たちは、シャンパンのコルクのようにプカプカと海 に浮かんでいるだけ。船が波に飲み込まれることはめったにありませんが、 波の頂点が崩れてくることはあります。でもそれは最大5 フィートくらい のサイズです。
ロス:海の波は、怖くもあり美しくもあるんです。まるで小さな丘の上に引 き上げられるようにゆっくりと上昇し、何キロ先まで見渡せる状態から、 今度は下まで落とされる。これには感動します。しかし巨大波は、より予測 不可能です。通常の波の 2 倍の高さで、違う方向からやってくることもあ り、対処するのが難しいので、ただただ耐えるしかありません。