「これをコミュニティと 呼ぶなら、基本的に この通りに住む すべての人が含まれます」
リーヴスは、エイズが蔓延していた1980年 代初頭にサンフランシスコに住んでいたとき のことを、次のように話してくれた。「サンフ ランシスコに引っ越してきて2、3年すると、 “ゲイのがん”に関する噂を耳にするようにな りました。そして徐々に、私の身近にいる親し い人たちがひとり、ふたりと亡くなり始めた んです」。2 1987年、自分がHIV陽性であるこ とを知ったリーヴスは、残された日々を過ご すためにこの砂漠地帯に移り住んだ。「2年後 には私も死んでいると思いました」。しかし、 砂漠で暮らし始めるとT細胞が改善し始め、 ウイルスも検出されなくなったという。「砂漠 が私に命を与えてくれたのだと思います」と リーヴスは言う。
ライアンズは2003年にパームスプリングス に移り住んだ。そして自宅で開催した映画 パーティで知人からリーヴスを紹介された が、ふたりはすぐに1980年代半ばにサンフラ ンシスコで会ったことがあるのを思い出し た。「私たちはすぐに意気投合し、それから ずっと親友です」
ライアンズは、オールド・ゲイズの一員であ ると同時にオールド・ゲイ(高齢のゲイ)であ ること、そしてグループの名声がもたらした 有識者的ステータスを楽しんでいる。そして、 世の中がまだ進歩的でなかった時代のことも よく覚えている。息子が両親にカミングアウ トすることが、今よりずっと難しかった頃の ことだ。「当時はそんなことは誰もしませんで した。私の両親は、おそらくビバリーヒルズに あるセレブが行くような精神科医のところへ 私を連れて行き、矯正させようとしたでしょ う」。そして、ゲイが集まる場所だったラグナ ビーチやロサンゼルスのグリフィスパークか ら彼らを追放したり、逮捕しようとした警官 や市民たちもいた。「私たちの時代にどれほど カミングアウトすることが大変だったかを知 り、親にカミングアウトしやすくなったと多 くの人が言ってくれました」
10年以上という年月をかけて4人がこの砂 漠の地で作り上げた特別なかたちのコミュニ ティは、現在ではリーヴスとピーターソンが 暮らす一軒家をはるかに超えて広がってい る。「これをコミュニティと呼ぶなら、基本的 にこの通りに住むすべての人が含まれます」 と、2012年に引っ越してきた元ボディビル ダーのピーターソンは言う。みんなで一緒に 祝祭日を祝い、お互いを助けながら暮らして います、と話す。
そして忘れてはいけないのがオールド・ゲイ ズの最新動画を待ち望む、オンラインのファンが作るコミュニティ。オールド・ゲイズの TikTokのフォロワーは現在1100 万人近い。 ピーターソンがファンから受ける質問のトッ プ3は、「トレーニングの頻度は?」「筋肉量はど のくらい?」「見せてくれますか?」というボ ディビル関連のもの。「私に会いたがっている 人はたくさんいます」と微笑む。
ファンの関心の高さに、ピーターソンは今 でも驚きを隠せないという。「Z世代、X世代、 ミレニアル世代といった若い世代が、私たちの ような上の世代に大きな関心を抱いているよ うなのです。でも私が20代の頃、60歳の男性になんかまったく興味がありませんでした」
メンバー愛やグルーヴィーなダンスもさる ことながら、オールド・ゲイズの大きな魅力の ひとつは、彼らの何十年にもわたる体験談だ。 これらは、極めて個人的な体験でありながら、 当時を生きたゲイにとって集合的な記憶でも ある。たとえば、「いつ結婚するの」と母親に 聞かれ続けたマーティンが、(当時、ゴスペル グループの演奏ツアー中だったため)手紙で カミングアウトしたときのこと。彼のきょう だいがその手紙を母親に読んで聞かせると、 母親はマーティンと一緒にいてあげたいと泣 き出したという。あるいは、ライアンズがラグ ナビーチで初めて男性と愛し合ったとき、自 分のことがけがらわしく不快だと感じたこ と。けれども、その行為が罪だと言い続けてき た人たちは、結局は何もわかっていなかった のかもしれないと思うようになった。
セレブに会ったり、遅咲きスターになった り、ダンスを披露したりといったオールド・ゲ イズの活動で、何が好きかと尋ねれば、楽しい ことが少なくなりがちな年齢で、ワクワクす ることがいっぱいあることだと答えるだろ う。しかしそれ以上に4人が大切にしている のは、自分たちが築いた家族、お互いを大切に し合っている選択家族の存在だ。3
取材の前日、マーティンは入院中だったた め誰とも面会することができなかった。「非常 につらい一日でした。完全にひとりぼっち だったのです」。メンバーからの電話やメー ルがなんとか心を支えてくれた。「私たちは家 族です。みんなが私を助けてくれるし、私もい つでもみんなのそばにいたいです」。マーティ ンはこう言うとライアンズの方を向き、軽くキ スをした。