• お買い物カゴに商品がありません。
cart chevron-down close-disc
:

CAROLINE POLACHEK

キャロライン ・ポラチェク

  • Music
  • Volume 43

ゆっくりと燃え続けるスーパースター。
Words by Tara Joshi. Photography by Nedda Afsari. Styling by Mindy Le Brock. Production by Michael Zumaya. Set Design by Elise Jonke. Hair by Lisa-Marie Powell. Makeup by Leonardo Chaparro.

キャロライン・ポラチェクは、自身が発信する内容には慎重である。「ミステリアスになってはいけないと常々言われてきました」と38歳のシンガー/ソングライター/プロデューサーは言う。音楽業界での経験についての言及だが、SNS時代における生活全般について話しているようにも取れる言葉だ。「ですから私は何もかもオープンにするように教えられました。舞台裏を公開するのはもちろん、さらに舞台裏の舞台裏まで見せるということもやってきました」

コネチカット州出身のポラチェクは、現在暮らすロンドンの自宅アパートからビデオ通話で話している。画面越しにダークブラウンの髪のハイライトした部分が、太陽の光で輝いているのが見える。キャリアについては丁寧にそして鋭い洞察力をもって語るが、より自由に語れるような話題へ会話を持っていくのが得意だ。そして自分の言葉に気を配りつつも、オープンに話してくれる。

「 ミステリアスで魔法がかかったような作品にずっと興味がありました。その想いにいまでもしがみついて作品を作っています」と言い、大きな成功を収めた長いキャリアの中で学んだことを教えてくれた。「時間をかけて作り上げたものを、元に戻してはいけない。憧れの存在でいるためには、自分を誇張しすぎて台無しにしてはいけない」

それはこれまでの作品、とくにキャロライン・ポラチェク名義でリリースした2019 年の『Pang』と2023年の『Desire, I Want to Turn Into You』で表現されている。従来のポップミュージックの型やテーマに当てはまらないこれらの特別なアルバムは、リスナーを広大で混沌とした世界へと誘う。ヒットチャートにもランクインしている最新アルバムでは、バグパイプ、「むずむずするような原始的な」ドラム、温かみのあるベース、そして子どもたちのコーラスをフィーチャーしている。1 緻密に計算された豪華なアルバムだが、何よりも素晴らしいのはポラチェクの歌声である。まるでサイボーグのようなシュプレヒゲザング(語りと歌声の中間にある歌唱技法)、メロウなポップス、そしてオペラのようなロングトーンを自在に操る。ライブ会場では「超表現的」と本人が表現するボーカルに合わせて、オーディエンスがシングアロングを試みる楽しさがある。

ポラチェクは、自分の声がステージの主役であるだけでも、多くをさらけ出しすぎているように感じると話す。「私の音楽が主観的すぎるという点に少し悩んでいます」。そしてこう続けた。「どうしてもキャロライン・ポラチェクという主役の独壇場になりすぎてしまうのです。インストゥルメンタルや、ドラマ性を抑えた音楽を作りたいという思いがあります。リスナーが私の歌だけに集中するのではなくて、空間全体を感じられるような音楽です」2

けれども今のところ、自分が作るサウンドに満足していると話す。「想いを込めて、自分自身を表現するような曲を作らずにはいられないんです。たとえ自分にうんざりすることがあっても」と笑いながら言った。

(1)『Desire, I Want to Turn Into You』は、主要批評家のレビューを100点満点で評価するウェブサイトMetacritic で平均94点を獲得した。このスコアは「世界的な称賛」を示している。

(2) ポラチェクは2017 年、イニシャルであるCEP名義でインストゥルメンタルのアルバム『Drawing the Target Arrow
Around』をリリースした。

「音楽業界はほとんど信用できないことを学びました」

ファーストアルバムの『Pang』がリリースされた当時、ポラチェクはすでに多くの実績がある名の知れたアーティストだった。コロラド大学在学中の2005年、友人のアーロン・フェニングと一緒にインディー・シンセポップ・バンド、チェアリフトを結成し、2008年から2017 年にかけて3枚のレコードを発表した(とくに有名なのはiPod nanoのCMソングとして使われた“ブルーズィズ”)。さらに、2014年にはRamona Lisa、2017 年にはCEP名義で2枚のソロアルバムを発表。しかし初めてキャロライン・ポラチェク名義でリリースした『Pang』は、それ以前の作品よりも明らかにパーソナルで親密なアプローチで作られている。

「 チェアリフトの経験を通して、音楽業界はほとんど信用できないことを学びました。音楽レーベルというシステムにしても、音楽ジャーナリズムにしても。ブルックリンを拠点にしていたという理由だけで、『インディロックを作っている』と言われてきました。でも、サードアルバムはどう聴いてもインディロックのサウンドではありませんでした」

メジャーレーベルと契約したことで、SNSやストリーミングの数字に煽られ、よりデータに基づいたアプローチへと音楽業界がシフトしていくのを経験した。「突然、所属レーベルがデータしか見なくなってしまいました。良い曲という感覚的なものや流行りなどを一切無視して。こういったことすべてのせいで、音楽機関に対する信用をなくしてしまいました。でもある意味、それは私にとって都合が良いことでした」

ポラチェクは、直近2 枚のアルバムを自身のレーベル「Perpetual Novice」からリリースしている。そうしたことで自分のキャリアに以前よりも自信を持てるようになったそうだ。「信じているからこそ、金銭的なリスクを負うことを厭わないのです。自分の考えをより深く伝達したいと思っています。そして作品が持つ美しさやメッセージを世間へ伝える際に、以前のようにスタッフに丸投げにしたりしません。ソロプロジェクトが最終的に軌道に乗ったのは、自分ひとりでやったということ、そしてすべての決断に金銭的な責任を負っていることを意識したからだと思います」

ベテランアーティストでありながら、“新人”ソロアーティストとして『Pang』をリリース。この時、キャリアを「白紙に戻す歓び」を得たという。

当初、ファン層は2分されると予想された。ひとつは、インディ好きのチェアリフト時代からのファン。そしてもうひとつは、ポラチェクがソロ転身後たびたび協業する、ロンドンのエクレクティックなレコードレーベル「PCMusic」のファンだ。3 PC Music のダニー・L・ハールと共同制作したセカンドアルバムが世に出た今、ポラチェクは「よりミステリアスでエキサイティング」な存在になっているはずだと自負する。ライブ会場では「複数のカルチャーが同時多発しているのを目の当たりにした」と語る。「たとえば、とてもシリアスなリスナー、ベッドルームで論文を書いたりかぎ針編みをしたりするタイプの女の子たち、ファンアートを作ったり、編集をしたり、Reddit やDiscordでアクティブに発信したりする人たち、それから…… ほら、ただTwitter をやっている人たち」

このようにファン層が広がっている理由は、ポラチェクが新しいオーディエンスと音楽体験を共有するためにツアーを続けているからでもある。この取材をしたときは、ちょうど2 年間ほぼノンストップで続いたツアーが終盤に差しかかっていた頃だった(そしてコンサートの衣装を業者が引き取りにきたため、取材を中断するという場面があった)。デュア・リパの『Future Nostalgia』ツアーのアメリカ公演のサポート、チャーリーXCX、クリスティーヌ・アンド・ザ・クイーンズとのコラボ曲『NewShapes』、そして言うまでもなく高い評価を得たアルバム『Desire, I Wantto Turn Into You』のリリースという多忙を極めた日々がようやく終わろうとしていた。このツアーによって、アルバムを新たなかたちで表現することができ、その物質性と激しさをより強く意識するようになったという。非日常の日々を振り返り「普通の人に戻る方法を見つけないといけません」と言った。

ポラチェクは、休日を自然の中で過ごすのが好きだ。自然は作品における主要なテーマだ。『Desire, I Want to Turn Into You』では、歌詞にもミュージックビデオにも、豊かなブドウ畑、うねるような青い海、シーツを這うアリ、さらには火山、灰、塵、ひび割れた大地までもが登場する。自然の捉え方について問うと「肉体的でゴツゴツした古代から存在しているであろうものの質感を見つめていると、ある種の顔のない混沌とした活力、社会の崩壊と個人の再生を感じます」と説明する。

(3) PC Music は、ソングライター、プロデューサー、シンガーで形成する緩やかな集団で、ピッチの高いポップミュージックを作ることで知られている。創設者のA・G・クックは、ポラチェクの楽曲“Ocean of Tears”と“ Hey Big Eyes”をプロデュース。

自然をテーマにしているのは、人と自然界の関係が薄れたことへの危惧でもあるという。「人間は技術を使って自然から身を守ってきました。そして今、人は自然の象徴と無意識の奥深いところでしかつながっていません(中略)人の手が届かないような遠い場所です。(中略)魂と人間の欲望が織り成す風景こそが今の世界なのです」。したがって、ポラチェクはアートを通して自然界と人間のエゴが繰り広げるメロドラマを対比させ、自分自身の「愚かさ」と「ナルシシズム」を揶揄しているという。

ポラチェクは、10 代の頃にレディオヘッドの音楽と出会い「この世で迷子になったときの美学的な答えを用意してくれた」と感じたそうだ。自分の作品が同じような効果をもたらし、ポラチェクとリスナーを結びつける婉曲的なコミュニケーションになることを期待している。「音楽には、盾のような存在になる力があります。音楽がリスナーの多くの疑問に答えてくれ、保護するバリアになるのです。それが単なる音楽とアートの違いです。楽は『どうすればリスナーの耳に心地よく響くか?』ということだけを意識しますが、アートはずっと深い問いに取り組んでいるのです」

最近は、ポラチェクのツアードラマーのラッセル・ホルツマンから聞いた、マイルス・デイヴィスについての話をよく思い出しているという。ホルツマンの父親は、この伝説のジャズミュージシャンと共演した経験がある音楽家だったそうだ。「ある人がマイルスに『一番秀でていることは?』と尋ねると、マイルスは少し考えて、『誰を選ぶべきか知っていること』と答えたそうです。偉大なミュージシャン、トランペット奏者である前に、偉大なキュレーターだったというわけです。そしてカニエ・ウェストやビヨンセも同じように、人を見る目があるのです。4 私自身もこの7 年で人生が一変したと感じています。素晴らしいミュージシャンと共演し、ツアーでは強い絆を感じることができました」

その他にも手に入れたことがある。作品にミステリアスな魔法の要素を取り入れつつ、コラボレーターたちと理解し合うために心をオープンにすることのバランスを保てるようになったのだ。

「 この世界では、誰もが偉大なミュージシャンで、それぞれが孤立した存在だと教えられます。でもそれではうまく行かないと思います」。カオティックで皮肉、しかし本能的な美しさを持つその音楽を通して、キャロライン・ポラチェクはこの状況を少しでも改善しようとしている。

REPLIKA VINTAGEのヴィンテージのTシャツ、ANN DEMEULEMEESTERのヴィンテージのスカーフ、私物のトラウザーパンツ

(4) ビヨンセは、セルフタイトル(『ビヨンセ』)の5枚目のアルバムで“No Angel”を含む数曲のプロデュースをポラチェクに依頼した。

REPLIKA VINTAGEのヴィンテージのTシャツ、ANN DEMEULEMEESTERのヴィンテージのスカーフ、私物のトラウザーパンツ

(4) ビヨンセは、セルフタイトル(『ビヨンセ』)の5枚目のアルバムで“No Angel”を含む数曲のプロデュースをポラチェクに依頼した。

a

こちらの記事は Kinfolk Volume 43 に掲載されています

購入する

Kinfolk.jpは、利便性向上や閲覧の追跡のためにクッキー(cookie)を使用しています。詳細については、当社のクッキーポリシーをご覧ください。当サイトの条件に同意し、閲覧を続けるには「同意する」ボタンを押してください。