• お買い物カゴに商品がありません。
cart chevron-down close-disc
:
  • Travel
  • Volume 41

FROM SEA TO SHINING SEA
世界の海の端から端まで

ターナー兄弟の冒険。
Words by Alice Vincent. Photography by Richard Gaston.

地球上でもっとも行くことが困難な「到達不能極」の制覇を目指してい ることで知られるロス・ターナーは、ロンドンの王立地理学会に漂う息苦 しい空気の中でも驚くほどくつろいでいる。学会の本拠地は人けがないが、アーネスト・シャクルトンが冒険で着用したバーバリーのヘルメットが所 蔵され、17 世紀の世界地図が廊下に飾られているように、亡霊たちがたく さん住んでいる。ロスの双子の兄弟、ヒューゴは湖水地方からスピーカー フォンでこの取材に参加している。一卵性双生児のヒューゴとロスのター ナー兄弟は、プロの冒険家として、同学会のレガシーを引き継いでいる。大 西洋をボートで横断し、ヨーロッパの最高峰、エルブルス山に登り、地球上 を広範囲にわたり高く、そして深く駆け巡っている。

現在34 歳のターナー兄弟は、現代でも英国の探検家に求められる伝統を 重んじている。その一方で彼らがこの 10 年間に命がけで取り組んできた研 究といえば、海のプラスチック量の調査など、非常に現代的なテーマだ。探 検家になったきっかけは、17 歳の時にヒューゴがダイビングで首を骨折し たことだった。その後、歩けるようになったヒューゴと、脚の骨折でラグ ビー選手としてのキャリアを絶たれたロスは、地球上でもっとも危険な環 境のなかで精一杯生きることを決意した。そんな道を歩むターナー兄弟は、 地球上の水について熟知している。彼らは、氷、雪、海に対峙し、つねに自 分たちが生きるために必要な水を確保しながら探検を続けている。

海で人が巻き込まれるもっとも危険な状況とは何ですか?

ロス:船路だと思います。 ヒューゴ:船路はとても危険です。昼間は明らかに船が見えるし、自分から の角度や向かっている方向、速度もわかるからいいんです。でも夜になる と船のライトしか見えません。

夜の海に出る場合、他にも注意する点はありますか?

ヒューゴ:船によって異なるので、灯火の意味を理解する必要があります。 点滅のスピードや方法も船によって異なります。たとえば 2 回セットで点 滅したり、連続的に点滅したり。左舷は赤、右舷は緑のライト、危険信号は 黄色や黒を使うなど、さまざまなバリエーションがあります。

ロス:でもそれが理解できるようになると、実はとても簡単です。航行中は、 周辺視野と聴覚をフル活用することになり、これはとてもよいことです。 帆を張っているときはとくにそうですね。水しぶきの音が聞こえたら、そ れは無灯火船がいることを意味します。音は水の上をよく伝わるんです。

生物発光(水中で生物が光を生成し放射する現象)を目撃したことはありますか?

ロス:最初に見たのは、2011 年に大西洋を漕いで渡ったときでした。水平線 が見えないほど真っ暗闇のなか、星に包まれてボートを漕いでいたんです。 水面に星が映るということは、地球が球体だということの証明です。漕い でいると、オールが生物発光の小さな渦を作り出しました。そして、ボート の下でマグロが小魚を追いかけているのに気づきました。まるでマグロの 形に沿ってクリスマスのイルミネーションライトをあしらったように 光っていました。

ヒューゴ:もう 1 回は、英仏海峡のライム湾でした。プラスチック調査のた めに大西洋の中心点まで航海するプロジェクトを終えた直後で、イギリス を周遊していたときのことです。夜中の 12 時ちょっと前にライム湾を航行 していると、突然、第二次世界大戦の映画のワンシーンにいるような感覚 に陥りました。船の舷側のまっすぐ先に、水中魚雷のようなものが見えた のです。暗い水中で、生物発光の中をイルカの群が泳いでいたのです。私が 今まで経験したなかでもっとも神秘的な海での出来事でした。

海を漕いで渡るときに、海の巨大さを実感しますか?

ヒューゴ:いいえ、海には船以外、まったく何もないので、スケール感が まったくわからなくなります。だから、すごく孤立したような気分になり ます。自分が地球にいるという実感がなくなるんです。

水は変化しますか?

ロス:水の種類は確かにありますね。イギリス海峡はターコイズブルーに 近い緑色。そして、イギリス近辺の沿岸の緑色の海が、突然カリビアンブ ルーと呼ばれる鮮やかな青色に変わる境界線があります。陸からどれだけ離れたのか、海の色でわかりますよ。

40 フィート級の波にはどう対処するのですか?

ロス:陸で 40 フィート(約12 メートル)といえばたいしたことないように思 えますが、海上ではふたつの波の頂点の間の距離が200メートル、300メートルとなります。

ヒューゴ:この間に私たちは、シャンパンのコルクのようにプカプカと海 に浮かんでいるだけ。船が波に飲み込まれることはめったにありませんが、 波の頂点が崩れてくることはあります。でもそれは最大5 フィートくらい のサイズです。

ロス:海の波は、怖くもあり美しくもあるんです。まるで小さな丘の上に引 き上げられるようにゆっくりと上昇し、何キロ先まで見渡せる状態から、 今度は下まで落とされる。これには感動します。しかし巨大波は、より予測 不可能です。通常の波の 2 倍の高さで、違う方向からやってくることもあ り、対処するのが難しいので、ただただ耐えるしかありません。

海でのサバイバルと氷上でのそれを比較するとどうでしょうか?

ロス:まったくの別物です。海では、救命ボートや船で何日も快適に過ごす ことが可能ですし、海から食料を調達できるので何カ月も生き延びること ができます。けれども、雪や氷の上では、食料の量は限られています。不思 議に感じるかもしれませんが、雪の中でのサバイバルでは水も問題になり ます。ですからこの状況で最悪なのは、完全に水を使い果たしてしまうこ とです。

ヒューゴ:というのも、雪だけだと溶けないのです。非常に冷たいので、熱 を与えてもすぐに蒸発して気体になってしまうのです。 ロス:だから、水の容器の底にかならず少量を残しておいて、その上から雪 を入れれば溶けます。極地では、つねに底に 1 インチほど、約指2 本分の水を 残しておきます。ガスが凍ってしまって火を起こすことができないので、 ホワイトスピリッツなどの、ブタンやプロパンガス以外の可燃性の液体を 燃やさなければなりません。野営をしない場合でも、私たちはサーモスやウォーターボトルに水を作っておくようにしています。

ヒューゴ:また、トレッキングや登山、作業中でも、すぐに汗をかかないよ うにすることも大切です。なぜなら、衣服が水分を含むと、すぐに保温性を 失ってしまうから。メリノウールは、体から湿気を逃がすのにもっとも適 した素材です。服が濡れると、本当にさまざまな問題が発生するんですよ。 ロス:個人的には、極地環境での最大の発見は、雪をサバイバルツールとし て利用できることでした。吹雪でテントに雪が積もり始めたら、テントの 入り口のタープ部分の下に雪穴を掘ってスペースを作ります。たとえ外が マイナス 100 度であっても、その空間の中は零度くらいを保つことができ ますし、雪も崩れません。私たちはテントの下にちゃんとした部屋を掘っ たことがあります。嵐が止むまでそこで避難することができます。

01_nouhin

こちらの記事は Kinfolk Volume 41 に掲載されています

購入する

Kinfolk.jpは、利便性向上や閲覧の追跡のためにクッキー(cookie)を使用しています。詳細については、当社のクッキーポリシーをご覧ください。当サイトの条件に同意し、閲覧を続けるには「同意する」ボタンを押してください。