「スピリチュアリティは日常生活から切り離されたものではありません。日常生活の中核にあるもので、切り離すことはできません」
レインボーファミリーは、数多くあるサンガ(実践者の集まり)のひとつに相当する。プラムヴィレッジでは、サンガはさまざまな形態をとっており、オンライングループなどの新しい形のものも存在する。COVID-19の大流行で世界中のコミュニティが存続の方法を模索せざるを得なくなったとき、プラムヴィレッジではすでにその準備が整っていた。「プラムヴィレッジに来ることができない人々をサポートするために、2010年にタイはオンライン僧院を始めることを思いつきました」とブラザー・バオ・タンは言う。その先見の明によって、プラムヴィレッジは、パンデミックによる閉鎖でリトリートをリモートで運営しなければならなくなる10年も前から、オンライ ンのサンガを実践していたのだった。
現在、プラムヴィレッジには約200人の僧尼が暮らし、オンラインでも対面でも、年間数千人の修行者を迎えている。けれども、スピリチュアルな実践を行っているにもかかわらず、僧尼たちがストレスから解放されているとは言い難い。この規模の僧院を運営するには、メールや財務表、スタッフミーティングなどの業務と向き合う必要があるからだ。「僧侶になる前は1つの仕事しかしていませんでしたが、僧侶になってからは5つ以上の仕事をかけ持ちしています」と話すブラザー・バオ・タン。僧院や世界各地にあるリトリートセンターでのダルマティーチャーとしての任務に加えて行っている調理や清掃といった肉体労働について詳しく説明してくれた。「急いでやらなければならないことやストレスを感じることもあります。けれども、それはしかるべきことであり、最終的には私たちの幸福につながるのです。たとえば、その結果プロジェクトが完了するとか、駅に時間通りに到着するとか」
このようにプレッシャーを感じることもあるが、僧侶になる前の生活と比べると、僧院で働いているときは「より多くの空間と時間」を感じられると話す。多忙な毎日でも、世俗の仕事ではおそらく多くの人が感じられないような目的意識を持って仕事をしているからだろう。ブラザー・バオ・タンは、僧院にいるほうがマインドフルネスを実践しやすいと認めているが、ティク・ナット・ハンのマインドフルネスの教えは、誰もが積極的に瞑想を生活に取り入れられるようにするためのものだった。瞑想は、人々が世界と完全に関わることができるようになる方法だと考えていたのだ。「先生はいつも、関わりを持たなければ、それは仏教ではないと仰っていました。スピリチュアリティは日常生活から切り離されたものではありません。日常生活の中核にあるもので、切り離すことはできません」
だからこそ、プラムヴィレッジは、世俗からの安らぎを求めるすべての人々に手を差し伸べているのだ。誰でも条件なく受け入れている。「私たちは誰かを改宗させるつもりはありません。それよりも大切で切実なのは、人々を平和と幸せへ導くことだと思っています」