〈ヴィラ・ヴェントラム〉は現在、〈ザ・ニュート〉の会員向けにガイド付きツアーとして公開されている。このような再建プロジェクトは、少し間違えばテーマパークのようになってしまう危険性があるかもしれない。けれども〈ザ・ニュート〉のチームの細部への徹底的なこだわりのおかげでその心配はない。たとえば、置かれている家具から提供される飲食物(リコッタとケシの実を練り込んだパンや、サフラン、白ごま、はちみつで作られた甘いローマ式ワインのコンディトゥム・パラドクスムなど)まで、すべてが考古学的証拠に基づいている。ウィークスは、〈ヴィラ・ヴェントラム〉の正面玄関のデスクの上に置かれた、丸みを帯びたグラスを手に取り、こう言った。「これはIKEAで売っているグラスのように見えるかもしれません。けれども、出土品のグラスの縁のわずかな欠片を大英博物館に送り、地中海に現存するグラスと照らし合わせて分析した結果に基づいて作りました。非常に規格化された工程で作られていたため、同じ型を見つけることができたのです」。そのグラスを再現するために、ウィークスのチームはベネチアのムラーノ島にあるガラスメーカーにコンタクトを取った。当時と同じクオリティで製造できる世界で唯一のメーカーだという。
荒打ちしっくいの壁には、エレガントな縁取り、古典的なモチーフ、風景画、肖像画があしらわれている。版築の床に散りばめられた複雑なモザイクは、地元で採石された石を使ってケンブリッジ大学のチームが作った。遺跡から発掘された石と同じものが使われている。浴場のテピダリウム(低温浴室)とカルダリウム(高温浴室)のフレスコ画には、イタリアから保存修復の専門チームが招かれ、ブオン・フレスコと呼ばれる、現代ではほぼ廃れた伝統的な手法で、濡れた漆喰の上に直接絵を描いた。「装飾はステータスを示すためのものでした。貴族は非常にスノッブだったので、客人を圧倒するために浴場にも財産をつぎ込みました」とウィークスは話す。
建物の正面には、両脇に鋳造ブロンズのオイルランプが配されたアーチ型の玄関がある。扉を開け放すと建物の反対側へ抜けて庭へと続く景色が見え、玄関のアーチがまるで額縁のようだ。その左右対称性と見事な調和は、英国の壮麗なカントリーハウスや庭園の建築を彷彿とさせる。〈ヴィラ・ヴェントラム〉のデザインは、ウェルネスとリラクゼーションを重視する、私たちが理想とする現代の暮らし方と重なる部分が多い。ポルティコ(屋根付きの回廊)や造園された庭園を通して、屋内と屋外の空間は容易に行き来することができる設計になっている。そして現代のスパにあたる浴場施設には床暖房が完備され、当時の人たちは一日に何度も利用していたようだ。1 身分の高い来客をもてなすための部屋タブリナムは、建物内でおそらくもっとも華やかな部屋だ。ここで客人は、優雅な長椅子に横たわりながら、装飾的な二層吹き抜けやロマンチックな壁画を眺めながら、ワインと食事を楽しんだとされている。
考古学研究が商業と密接に結びついていることに批判的な意見を持ち、その価値や信憑性に疑問を抱く人もいるかもしれない。ローマ時代に着想を得た陶器や関連書籍は、ギフトショップで購入することができるし、周辺に植えられたピノ・ノワールのブドウの木(もちろん、ローマ時代同様に一本仕立ての剪定をする)が初収穫を迎えたら、出来上がったワインは包装され、間違いなく来園者に販売されることだろう。運営チームは、同施設が文化的なものと商業的なものの間の微妙な境界線に立っていることを自覚しており、うまくバランスをとるよう注力している。まさに、学問と観光が融合したこのユニークな手法だからこそ、語られる機会がなかった歴史がこのように魅力的な姿で蘇ったのである。
「このプロジェクトのゴールのひとつは、ローマ人がサマセットにいた理由をより明確に、そして多くの人に伝わるように説明することでした」とウィークスは話す。「考古学では、発掘した石を眺めて、石の背景にある、より大きな何かを考えるように教わります。でも実際には、建物を土の中から掘り出して、再建してみて初めてその存在を実感できるのです。これこそが〈ヴィラ・ヴェントラム〉と他の発掘プロジェクトの違いです。私たちがここで提供しているのは、本当の意味で没入できる体験なのですから」
「装飾はステータスを 示すためのものでした。 貴族は非常に スノッブだったので」