それは被験者が実際に言ったことですか?
そうです。しかもひとりだけではありませ ん。参加者の3分の2が人生でもっとも重要 な経験のひとつだったと評価したのです。
サイケデリック研究センターではどのような 研究をしてきたのですか?
私たちはこのような体験の背後にある脳の 状態を理解し、この体験が誰も完全に理解 していない意識について何を教えてくれる のかを理解しようとしています。また、この 専門家のサポートのもと行われる幻覚体験 がさまざまな症状に対する治療効果がある かどうかも調べています。今のところ効果 があると思われます。
おもな研究成果は何ですか?
幻覚剤の効果を受けた脳は、混沌とした柔 軟な状態になり、自由な発想ができるよう になり、思考パターンが緩むことがわかっ ています。これは自分自身に対する否定的 な考えに思考を狭め、否定的な自己イメー ジですべてを解釈してしまう、うつ病の治 療に役立つと考えられます。 私たちは、うつ病に対する幻覚剤治療の試 験を50年ぶりに行い、シロシビンの治療効 果が非常に有望であることを確認したので す。次の研究では、従来のSSRI(選択的セロ トニン再取込阻害剤)抗うつ剤と比較しま したが、結果は全体的にシロシビンに軍配 が上がりました。
従来の抗うつ剤と違い、幻覚剤は症状ではな くうつ病の原因を治療する、と言っていいで しょうか。
はい、そう思います。幻覚剤は精神に深く潜 り込み、精神を緩め、視点を変え、魅力的な 方法で深層心理に潜む症状を扱うことを可 能にするようです。私たちの試験では、トラ ウマになるような事柄が表面化し、再評価 されるのを見てきました。うつ病の、硬直し たネガティブな思考のスパイラルに閉じ込 められている感覚が、宇宙、自然、周囲の 人々、そして自分自身とその感情とつながっ ている感覚に変わっていくのです。
その変化は薬物が体内から抜けた後も長く続 くということですか?
もちろん。非常に興味深いことですが、それ がどれくらいの期間なのかはまだ正確には わかっていません。大きな疑問は、どれくら いの頻度で再投与したり、追加の体験をし たりする必要があるかということです。 ジョンズ・ホプキンス大学の同僚は、これを 「逆PTSD」のようなものだと言っていま す。深いトラウマとなる体験は、脳の配線を 変化させ、不安や抑うつ症状、フラッシュ バックや悪夢など、メンタルヘルスに長期 にわたる悪影響を与えることがわかってい ます。ですから、深い帰属意識をもたらすス ピリチュアルな体験も、精神と人生に長期 にわたるポジティブな影響を与える可能性 はあるはずですよね?
科学的なレベルではどうなのでしょうか?
私たちを変えるものはすべて脳組織に何ら かのサインを残します。幻覚体験は、実際の 脳の配線や脳細胞のつながり方に変化をも たらすかもしれないのです。そしてこれに よって、考え方や生き方を再構築できるか もしれません。
幻覚剤の使用者は、しばしば宗教や霊的な言 葉を使って自身の体験を語ることがあります よね。科学的にはどう考えていますか?
私たちのアンケートはもともと「神秘体験」 や「無限の海」といった、幻覚体験者が使っ た言葉に基づいています。これらは非常に 詩的で、科学的にはややふわっとした言葉 かもしれませんが、それはこれらの体験の 本質を明確にすることが難しいからなので す。これらの用語は、筋金入りの薬理学出身 ですべてをうつ症状の尺度で測ろうとする 科学者にとっては刺激的かもしれません。 しかしこれらの体験は非常に豊かなものな ので、もっと広い言葉を使う必要があるの です。これは医学にとって新しいボキャブ ラリーだと言えるでしょう。
幻覚剤治療の試験に参加した患者がネガティ ブな体験をすることはあるのでしょうか?
たとえば重度のうつ病やトラウマといった 精神的な問題を抱えている人の場合、幻覚 体験は潜在意識や抑圧されたものをたくさ ん呼び起こす可能性があります。これは精 神疾患を持たない人にも起こりうることで す。安全な治療環境で行われるのであれば、 幻覚剤治療は非常に興味深く有益なものに なる可能性があります。現に私たちは試験 でそれを確認しています。しかし参加者た ちには、幻覚体験について話し合ってまと めるための準備、支援、指導が必要です。そ のためには参加者の足場を固めてくれる人 が必要になります。参加者は飛行機を操縦 し、私たちは安全なフライトを支える客室 乗務員のようなもの。しかし最終的には、セ ラピーと同じようにその人自身が物事を理 解することが重要なのです。
「幻覚剤の効果を受けた脳は、 混沌とした柔軟な状態になります」