本能のままに伸びる根や茎が魅せる不揃いだからこその、純粋な美しさ。 物語の始まりは、大地に落とされた小さな種。種はやがて根を張り、光を追い求めて芽生え、茎や葉や実が育つ。そんなふうに、植物が成長していくプロセスを服で表現したのが、ISSEY MIYAKEの2022/23年秋冬コレクション「Sow It and Let It Grow」だ。 世の中の変化を受けて、身近にあるものからインスピレーションを得てきたデザイナーの近藤悟史が、今季着目したのは「植物」。しかも、人の手を加えていない、野生の植物の素のままの美しさ。野菜にたとえるならばそれは、お店で整然と陳列されているものではなく、泥がついたままで土の香りのする、瑞々しく生々しい野菜だ。ひとつひとつ異なる、鮮やかな色彩と型破りな造形。その有機的な美を、コレクションのアイテムに落とし込んでいる。 豆とさやをイメージした「PODS」や、果実や野菜の断面を表現した「SLICE」など、新しいアイディアと職人の技術が光るシリーズが並ぶなか、とくに今シーズンを象徴しているのが無縫製のニットシリーズ「RHIZOME」だ。「根茎」を意味する名前のとおり、植物の根や茎があらゆる方向に生えているようなデザイン。一見シンプルだがユーモアあふれるディテールも特徴で、長く垂れ下がった部分を腰や首まわりに結んだり、あいた穴に腕や顔を通したりと、何通りにも着られてフォルムの変化を楽しめる。服に潜む大きな可能性を感じさせる、フレキシブルなニットだ。 そんな「RHIZOME」を主役にしたコレクション映像とシーズンビジュアルがこの度完成した。ディレクションはイギリスの映像作家Marcus Tomlinson。2000年頃からISSEYMIYAKEの映像や写真を手がけ、ブランドへの理解もある彼との共同作業は、とてもスムーズに進んだという。服づくりのコンセプトを伝えると、そこから発想した絵コンテを彼が制作。それはテーマを的確に表しながらも想像を超えた新しいクリエイションで、その世界観を尊重しながら、共に作品を作り上げたという。 映像と写真に登場するのは「RHIZOME」をそれぞれ自分らしく纏った、多様性を表す5人のモデル。背景に緑の森が広がる小麦畑に横たわっていた5人が、ひとり、またひとりと起き上がり、好きな方向へ駆け出していく。そして森や畑で思うままに身体を動かし、それに合わせてニットも揺れる。まるで縦横無尽に根を張り、空へ向かって伸びていく植物のように。 そんな植物の自由さや純粋さは、世界のあり方や人の生き方をも見つめ直させてくれる。不揃いでも誇りをもって、本能のままに。そんなふうに生きるために「自分で表現できる服」、それがこのコレクションの真髄なのだ。 ただ、自由ではあるけれども独善的というわけではない。「RHIZOME」の背後に込められたもうひとつの思いは「つながり」。多様性が広がる世界のなかで、つながりを感じることはより重要になってきている。たとえ物理的に離れていても、互いに響き合いながら関係性の糸を紡いでいきたい。美しく編まれたニットのように、しなやかに力強く。 ものづくりへの真摯な取り組みと、長年培った技術で実現した、特殊な編機で立体的に編み上げる無縫製のニットシリーズ「RHIZOME」。思いもよらないところに穴を開けて、「腕を通したらどういうふうに見えるか?」など遊び心を加えながら、試行錯誤して出来上がった。ふっくらとしたウールの紡毛糸を使用。ワンピース1型、トップス2型の計3型で、カラーはオフホワイト、ベージュ、マゼンタ、ブラックの4色展開。 TwitterFacebookPinterest ものづくりへの真摯な取り組みと、長年培った技術で実現した、特殊な編機で立体的に編み上げる無縫製のニットシリーズ「RHIZOME」。思いもよらないところに穴を開けて、「腕を通したらどういうふうに見えるか?」など遊び心を加えながら、試行錯誤して出来上がった。ふっくらとしたウールの紡毛糸を使用。ワンピース1型、トップス2型の計3型で、カラーはオフホワイト、ベージュ、マゼンタ、ブラックの4色展開。 こちらの記事は Kinfolk Volume 38 に掲載されています 購入する Related Stories Fashion Partnerships Volume 36 UNKNOWN VOYAGE 鮮やかで美しい深海の世界との出会い。 Fashion Partnerships Volume 48 PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE 日常にあふれる多彩な光が持つポジティブな力を表現した衣服。 Design Partnerships 再び集う フリッツ・ハンセンとのパートナーシップによる、小さな集いの再来。 Fashion Partnerships Volume 31 Unpack the Compact 箱を開ける時の喜び。誰もが知る感覚をいま呼び起こす。