소개 はじめに いま、まさに旬を迎えているソウル。人口約1000万人を誇るこ の大都市(首都圏を含めると韓国の人口の半分にあたる5200万 人)は、この数十年間で目覚ましい変貌を遂げた。朝鮮戦争による 荒廃からの復興。急速な都市化によってさらに進化。そして21世紀 に入ると、芸術の革新的な拠点として頭角を現した。近代的な建築 やコンセプトストアから、活気のあるスペシャルティコーヒー シーンに至るまで、クリエイティブなエネルギーが満ちあふれて いる。けれども、目まぐるしく発展する一方で、歴史に敬意を払う ことを忘れていない。古代の宮殿の修復や、歴史的建造物の保存に 力を入れて取り組んでいる。漢江のほとりで手つかずの山々に囲 まれたメトロポリスは、いつの時代も新旧の魅力的な共存を生み 出しているのだ。 最近のソウルの急成長は、文化大国としての韓国の台頭を反映 している。それまでは東アジアの中でも世界的には控えめな存在 だったが、1990年代の経済的繁栄によってエンターテインメント 産業への積極的な投資が行われるようになり、後に「韓流」として 知られるブームの種がこのときに蒔かれた。韓国ドラマとポップ ミュージックは、心に響くテーマと圧倒的なストーリーテリング によってアジア地域で最初に大成功を収めた。その後、韓流は欧米 への普及が進みK-drama、K-popという言葉が日常的に聞かれる ように。さらにここ10 年で勢いを増し、BTSやブラックピンクを はじめとするポップグループ、『イカゲーム』のようなドラマ、アカ デミー賞を受賞した『パラサイト 半地下の家族』のような映画の 成功によって、言語の壁を越えて世界的な知名度(と熱狂的なファ ン)をもたらした。 韓国文化のインターナショナルな成功は、現代の韓国から感じ るオプティミズムと創造的なエネルギーが生み出したものである が、一方でそれまでの歴史の影響も街には色濃く残っている。国内 では、韓流の時代に育った若い世代と、前世紀の苦難を経験した世 代との間には隔たりがあると考える人が多いという。過酷な日本 植民地時代には、朝鮮文化が徹底的に弾圧され、また朝鮮戦争 (1950~1953 年)が勃発した結果、南北に分断。戦争で壊滅的打撃 を受け、一時は地球上でもっとも貧しい国のひとつになったこと もあった。数十年にわたる独裁政権と経済的苦難を経て、1987 年 に当時の大統領候補の民主化宣言により、韓国に再び民主主義が 訪れる。そして「漢江の奇跡」と呼ばれる飛躍的な経済発展により、 韓国はわずか数十年で援助を受ける国から援助する国へと変貌を 遂げた。そしていまでは、世界でもっとも豊かな国のひとつになっ ている。 これらすべては、ソウルの街並みからうかがい知ることができ る。たとえば復元工事中の景福宮(キョンボックン)。朝鮮王朝王宮として建造された壮大な景福宮は、日本統治時代に破壊され、 朝鮮総督府庁舎が建てられた(それも後に壊された)という歴史を 持つ。賑やかで国際色豊かな梨泰院は、隣接する米軍基地の影響を 受けて形成されたエリアだ。そして都市の急成長に比例して建設 された高層アパート群。側面に書かれた3 桁の数字がないと識別 することさえ困難なほど、どれもそっくりだ。これらの歴史的景観 が、モダン化が進む新たな一面と交差するのが現在のソウルだ。か つての工業地区はショッピングやレジャー施設に生まれ変わりつ つある。コンテンポラリーなデザインのアートギャラリーや高級ブ ランドショップ、そしてイギリス系イラク人建築家の故ザハ・ハディ ドが設計した〈東大門デザインプラザ〉の個性的なフォルムを代表 とする実験的な現代建築が、新たなランドマークとなっている。 欧米の一流ギャラリーのアジア拠点であるだけでなく、アジア でもっとも影響力のあるギャラリーが集まっているのもソウル だ。2022年には、世界最大級のアートフェア〈フリーズ〉がソウル で初開催。アート同様に活気に満ちているのがグルメシーンだ。 2017年には『ミシュランガイド ソウル版』が発刊。クリエイティブ な高級レストランの中心地としてのソウルの新たな顔を紹介して いる。また、近年ソウル市内で話題のバーや醸造所によって再評価 された韓国の伝統的な米酒マッコリを、ユネスコ無形文化遺産に 登録するための活動が進められている。この都市のイノベーショ ン精神は、質の高いコーヒー、プレイフルなデザイン、ますます進 化するエキセントリックなスイーツを特徴とする、ソウルのカ フェカルチャーにも表れている。 そしてソウルは、その規模から想像できないほど住みやすい街 だ。法外な金額を出すことなく飲食を楽しむことが可能で、交通シ ステムも効率的で使いやすい。また、24時間眠らないスピーディ な大都市であるものの、自然が決して遠い存在ではないというの もポイントだ。市内を囲む山々へ、バスや地下鉄で簡単にアクセス できる。 モダンと古風なカルチャーが混在する現代のソウルは、まさに 世代交代によってこの都市が再構築されつつある様子を映し出し ている。深く根ざした伝統と保守的な社会構造が残る一方で、勢い のある若者たちが新たなことに挑戦し、変化を促し、より平等で多 様な社会の実現を提唱している。若者のパワーは、ソウルを一層グ ローバルな都市へと進化させる原動力だ。 長年の懸命な努力と革新によって誕生した現在のソウル。この 都市の発展のペースは衰える気配がない。今後もますます国際的 に注目されるようになるだろう。そして好奇心旺盛なトラベラー が探索するのにうってつけのデスティネーションということは間 違いない。 TwitterFacebookPinterest こちらの記事は Kinfolk Volume 46 に掲載されています 購入する Related Stories Travel Volume 41 世界の海の端から端まで ターナー兄弟の冒険・ Travel Volume 38 PONZA/ポンツァ島 新刊『KINFOLK ISLANDS』からの抜粋。