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  • Arts & Culture
  • Volume 49

LA IS OVER THERE
ロサンゼルスは彼方

音楽をニューヨーカーがロサンゼルスについて考える。 Words by Nicolaia Rips. Photos by Romain Laprade.

「ほかの場所に住もうと思ったことは?」。生まれも育ちもニューヨークの人間にとって、バカみたいな質問に感じるが、それでも人はたまに聞いてくる。しかも意見まで添えてくることがある。「君がほかの場所に住んでいる姿なんて想像できない。典型的なニューヨーカーだよね」

その意味は、私が神経質で、カフェイン中毒で、いつも忙しないタイプだということ。日常的にショートメールを無視するし、ハトを追い払いながら歩いている。つねにどこかへ急いでおり、誰かをがっかりさせたり、遅刻したり、早退したりする。自分の重要さと取るに足らなさの間で思い悩み、奪われたり、愛されたり、ストレスを感じたり、不幸だったり、幸福だったりと、感情が激しく揺れ動いている。

しかし、もしほかの場所に住むとしたら、荷物をまとめて引っ越すとしたら、私はLAに行くだろう。灰色のハトとはお別れし、代わりに平和の象徴である白いハトを呼び寄せるのだ。特定の場所にいるからこそ生き延びられている人、つまりルーティンが決まっていて、コーヒー豆を買う店が決まっていて、このエクササイズのクラスとあのバーがないと困るというような人は、やがて枯れてしまう運命にあるかもしれない。ドクター・スースのような言い方になるが、特定の土地に自分のアイデンティティを築くのはあまりにも土台が脆いと思う。私はどこでも、どれくらいの期間でも生きていけると信じている。もちろん確かな根拠があるわけではないが、もし家賃が十分に安くて、南向きの光が差し込むなら、ツンドラ地帯のコンテナハウスにも住んでみたいと思う。

税金を払う年齢になって初めてロサンゼルスを訪れたとき、あまりにもロサンゼルスを気に入ってしまった自分に驚いた。そしてこんなに高い税金を払うことがどれほど嫌かにも気づいた。私はハリウッドリージェンシー様式の家具が大好きだし、映画も大好きだ。生まれたときとはまったく違う自分を作り上げた人たち、粗削りな素材から新しいアイデンティティを築き上げた人たちが好きだ。自分自身の神話を作り上げることが好きだし、イヴ・バビッツも、太陽の光も、美しい女子も男子も、ウェルネスも大好きだ。1ニューヨークでは、みんな忙しすぎて健康でいる暇すらないように思える。無職の友人も、孤独なアーティストたち(作家やミュージシャンや画家。なんとなく想像できるでしょ?)も、不安というゼリー状の空気に閉じ込められていて、必死に手足をバタつかせながら、どこかにたどり着こうともがいている。

私はLAが大好きだが、その一番の理由はLAが遠い場所にあるということだ。もしそれがここにあったら、私は何にしがみつけばいいのだろう。先祖ゆかりの地であるミズーリに思いを馳せるのだろうか。マイアミのナイトライフに憧れるのだろうか。それともベルリンに夢中になるのだろうか。もしLAに引っ越したら、ほかのどこにいても感じるのと同じように、LAでも不幸を感じることになるだろう。それはある意味、重要な発見だと思う。しかし今のところLAがあちら側にあることに、心から感謝している。

(1) イヴ・バビッツは、1960~80年代にかけてロサンゼルスのカルチャーシーンを代表する作家でありアーティストだった。ブレット・イーストン・エリスはかつてこう書いている。「バビッツの著作には、ロサンゼルスとそのサブカルチャーへの愛情がいつもあふれている」

(1) イヴ・バビッツは、1960~80年代にかけてロサンゼルスのカルチャーシーンを代表する作家でありアーティストだった。ブレット・イーストン・エリスはかつてこう書いている。「バビッツの著作には、ロサンゼルスとそのサブカルチャーへの愛情がいつもあふれている」

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こちらの記事は Kinfolk Volume 49 に掲載されています

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