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  • Arts & Culture
  • Volume 33

未来に関する
調 査

50年後の世界はどうなっているだろう? 5人の専門家の意見。

50年後の世界はどうなっているだろう? 5人の専門家の意見。

2020 年はまさに“一寸先は闇”という言葉 がふさわしい 1 年だった。だからこそ、半世紀 先の世界の姿なんて誰にもわかるはずがない ように感じる。今回の「未来」特集では、SF 作 家、神経科学者、2 名の未来学者、サイボーグ 人類学者という、まったく異なる業界に身を 置く 5 人の専門家に未来の予測をしてもらっ た。甘美なユートピア主義的な考えもあれば、シニカルな悲観主義な意見もあり、回答は揺れ動くことに。さらに、この調査でわかった興 味深い点は、未来についての考え方には二項 対立があるということ。つまり、「実際に実現 すると思われる未来を予測する」べきか? それとも「人々が望むような未来を予測する」 べきか? というふたつの意見がある。

人はどのようにコミュニケーションを取 るのでしょうか?

アンバー・ケース(以下AC): 伝達の手段は 変わるでしょう。しかし音楽、芸術、映画、 信仰、愛といった、私たちが伝える内容は変 わらないと思います。

エルウィン・コットマン(以下EC): コミュ ニケーション方法は、良くも悪くもならないと思います。ただ、スピードが速くなるだ け。そして、テクノロジー企業への依存度はますます高まっていくでしょう。

クリスティン・アルフォード(以下KA): テ クノロジーの種類の変化ということよりも、私は未来の言葉について考えます。たと えばミームやポエム、短いテキスト、画像、 動画、音声などが、その共有方法によって何 層にも意味が重なっていくのです。しかも 急激なスピードで共有されるでしょう。

デビッド・イーグルマン(以下DE): 携帯電 話を使わなくなります。そしてより直接的なコミュニケーションが可能になります。 筋肉の微妙な動きや皮膚の振動を使って発信や受信をするのです。こうすることで、視覚と聴覚は他の用途のために使うことがで きます。

アンジェラ・オグンタラ(以下AO): スピー ドを優先することに慣れた結果、持続不可能な社会になってしまいました。この気づきから、将来は速度を落として、もっとゆっくりとした生活を送るようになると思います。

何を着るのでしょうか?

AC:“使い捨ての時代”である 2020 年代の 教訓から、未来の私たちは再び長く着られ る服を選ぶようになるでしょう。自分が暮 らす地域で採れる木の実を使ってリネンを 染めることが、どれほど意味のあることなの か。そういうことに興味を持つと思います。

EC: ノスタルジックになると思います。過 去を振り返り、昔の流行を復活させるのではないでしょうか? 今の私たちが 90 年 代を懐かしむように、今後も 20 年のサイクルで流行が繰り返されるのだと思います。

KA: テクノロジー面では、私たちが身に着 ける衣服に何層にもセンサーが埋め込まれ、電子機器を充電したり、身の回りのデー タを測定したりすることが可能になるで しょう。

DE: ファッション性や保温性という目的だ けでなく、コミュニケーションや感知を目的としたアクティブウェアが登場すると思 います。

AO: 今と同じような服を、より大切に長く 着ると思います。長期のステイホームによって、私たちは生活に新鮮さを求めてい ることがわかりました。しかし“使い捨て文 化”が生活に大きな喜びをもたらしてくれ ないことも痛感しています。

どのような家に住むのでしょうか?

AC: 環境に応じて、さまざまなことが可能になります。たとえば、砂漠に建つ家と太平洋岸北西部に建つ家では、外観からして別 物になるでしょう。家は居心地の良い空間になるでしょうし、省エネを推し進めるた めに自然エネルギーへの理解も深まると思 います。

EC: 社会階級によって異なります。金持ちは高級スマートホーム。中流階級は廉価ス マートホーム。そしてお金のない人たちは、 200 年前からずっと暮らしているボロア パートに住み続けることになるのだと思います。

KA: さまざまなタイプの家族がひとつ屋根の下で暮らすという選択肢も出てくると思います。そこで仕事をしたり、生活をしたりすることに慣れていくでしょう。

DE: 私は『Livewired』のなかで、生物学の可 塑性の原理を、いずれ家も利用できるようになると書きました。1 つまり、家自体が環 境条件に合わせて自ら変わっていくという こと。キッチンをもっと使うようになれ ば、キッチンのスペースを広くしますし、ゲ ストが来て多くの人がバスルームを使うようになれば、それに合わせてトイレや洗面台の蛇口の数を増やしていくのです。

AO: 空間を多次元的に活用し、多世代が一 緒に暮らすようになるでしょう。人々は、家庭、仕事、遊びのバランスがとれた、地に足がついた生活の大切さを再認識します。さ らに、世代を超えた共同生活の実現によっ て、共同生活の定義をより多様な視点でとらえるようになるでしょう。

 何を食べるのでしょうか?

AC: 昆虫食が普通になり、牛肉はもっとも 嫌な食べ物だと思うようになるでしょう。 また、ゴミも生物分解性廃棄物になるので、 人が口にしても問題なくなります。そして 重要なのは、住む地域の環境と気候に適し た食べ物を食べるようになるという点です。

EC: 今と同じく、ジャンクフードを食べ続 けるでしょう。私の発言は悲観的ですよ ね? でも、「食べ物=経済」なのですから 経済が変わらない限り、健康的な食べ物は世界中に行き渡らないと思うのです。

KA: 動物の肉の摂取は確実に減り、植物性 たんぱく質が増えます。しかも気候変動の影響で植物の栄養素が少なくなるので、たくさんの量を食べなければならないでしょう。培養肉も一般的になると思います。

DE: 肉から牛乳まで、すべての動物性製品 は、培養された代替品に置き換えられるで しょう。

AO: 私たちが今食べているようなものを食べているでしょう。でも便利さを追求するのではなく、相互のつながりを重視するようになります。つまり、旬産旬消を意識す るということです。

AMBER CASE
アンバー・ケース
アメリカのサイボーグ人類学者であり、人間とテクノロジーの相互作用を専門とする未来 学者。4 冊の本の著者。オレゴン州ポートランドを拠点に活動している。

ELWIN COTMAN
エルウィン・コットマン
アーバンファンタジーやダークファンタジー小説を専門とするSF作家。2020年に最新作『Dance on Saturday』を出版。 カリフォルニア州オークランド在住。

KRISTIN ALFORD
クリスティン・アルフォード
未来学者であり、南オーストラ リア大学付属のMOD(発見博 物館)のディレクター。現在、オーストラリアのアデレードを拠点に活動している。

DAVID EAGLEMAN
デビッド・イーグルマン
アメリカの神経科学者、作家。ベストセラーとなった短編集 『SUM』は室内オペラとして上演されている。また、神経科学と法律の架け橋となる独立非営利団体、Center for Science and Lawのディレクターも務める。

ANGELA OGUNTALA
アンジェラ・オグンタラ
ニュージャージー出身。コペン ハーゲンのデザインと先見性に 特化したコンサルティング会社Greyspace のディレクター。 多数の組織と連携し、望ましい未来をつくるためのアイデアを提供している。

未来の移動手段や旅行はどうなるでしょう?

AC: 私は旅行というものが、より有意義で 長期的なものになると考えています。今は世界のどこに行っても同じようなチェーン店ばかりであまり楽しくはありません。未 来の旅の目的は、思い出作りや新たな発見、そして文化を守るため。ひとつの場所に長 期滞在するようになると思います。たとえ ば日本の小さな村に半年間滞在し、伝統工芸品を学んだりするような感じです。

EC: 自動運転の乗り物が増えると思います。実際に普及するまでは、なんだか変に感じますよね。こう考えてみてください。飛行 機は約90%が自動操縦です。それが普通になったのだから、自動運転車での移動も当 たり前になるでしょう。

KA: エネルギー消費の少ない輸送手段が求められるようになります。私の予測では、2042 年までに旅客機の運航が終了し、それ以降は貨物機だけになるでしょう。

DE: 搭乗者を乗せたロケットを真上に打ち上げ、地球の自転に合わせて落下させます。 そうすることで、今よりもずっと遠くの目的地に行くことが可能になるのです。

AO: 未来の旅行は長期ステイ型になると思います。そして短期の小旅行は少なくなります。ということは、自分が日々暮らす環境から、多くの安らぎや感動を得ることに慣 れなければならないことを意味します。

将来の世界でなくなるものは何でしょう?

AC: プラスチックです。使い捨て文化はバ カにされるでしょうね。たとえば、機内食を食べるたびにたくさんのプラスチックが捨 てられますよね? バカバカしい。あと、料 理ができない人たち。嘘でしょう? って思 います。小さな部屋に住んで、食事をデリバ リーですませるという考えは後進的ですし、何よりも間違っています。

EC: 忍耐力です。SNS とともに育った高校 生と仕事をしたことがありますが、彼らは まさに高速な世界に生きています。SNS 中 毒と断定するわけではありませんが、とにかく彼らはそういう世界に生きているのです。

KA: 思い浮かぶのは、鉛筆ですね。私は今で も仕事でよく鉛筆を使います。でも、鉛筆もいつまでもあるようで、いつか消えていく もののひとつなのだと思います。

DE: 肌の色で善悪をジャッジするということはなくなるでしょう。

AO: 日常的な通勤や出張。人々は、仕事のた めに長距離を移動したり、飛行機に乗ったりする必要があるかどうか、より慎重に判断するようになるでしょう。私たちは、いかに多くの仕事がリモートで可能か経験済み なのですから。2

未来の私たちはどのような課題に直面す るのでしょうか?

AC: 私たちは自然との向き合い方を修正し、共存する方法を学んでいかなければなりません。

EC: 明らかな問題は、気候変動とそれに伴う大量の種の絶滅です。現実に起こっているのに、どの政府もまだそれに対して十分な対応をしていません。地球温暖化を止めるために人類は団結すべき。でも全然そうなる感じがしないのです。

KA: 社会的不公平。ジェンダーや人種の不 平等を抜本的に変えようとすると、今の権 力を握っている人たちは特権を手放すことになります。これは難しいことです。

DE: ほとんどの仕事をAIがやるようになると、何十億人もの人間がどう時間を潰すかということが課題となります。

AO: 共通の価値観や理解が失われつつあるなかで、この世界というものをどう把握すればいいのでしょう。大規模な変化の時代に「善い」とは何か、どう行動すべきかを理解するためには、サポート体制と集団的な意思決定が必要です。

誰が力を持つのでしょう?

AC: それが何であれ、誰よりも多くを共有する人。たとえ古代の儀式であろうと、より良い農業の実践法だろうと。そして、自然が大きな力を持つでしょう。

EC: プーチンでしょう。アメリカは世界最 大級の軍隊を持っていますが、ほとんど力はありません。権力を握るのは、お金を支配 している人たち、思想力がある人たちです。

KA: 変化は、アウトサイダーが権力者に挑戦することで生まれます。今日の権力者は 欧米の裕福な白人男性。そして若い女性た ちが変化を起こそうと奮闘しています。残念なことですが、体制の変化には崩壊がついてまわります。ロシアや香港がそうでした。多くが壊れると思います。人々は不公平 なものを壊そうとするでしょう。

DE: プログラマー。

AO: 作家が力を発揮すると思います。私たちの周りにはノイズや摩擦、不確実性が氾 濫しています。ですから世界を把握するための物語を語ることができ、人々に安心感や信頼感を与えてくれる作家が力を持つで しょう。

( 1 ) イーグルマンは『Livewired』のなかで、自らを再構 成できる機械を「ライブウェア」と呼んでいる。彼は、人間の脳と同じように、この機械も新しい環境に順応する機能を持つようになると述べている。
( 2 ) COVID-19の感染拡大を防止するために、航空便が激減した 。2021年1月4日の週に おける世界の定期便数は、2020年1月6日の週に比べて43.5%減少した。

( 1 ) イーグルマンは『Livewired』のなかで、自らを再構 成できる機械を「ライブウェア」と呼んでいる。彼は、人間の脳と同じように、この機械も新しい環境に順応する機能を持つようになると述べている。
( 2 ) COVID-19の感染拡大を防止するために、航空便が激減した 。2021年1月4日の週に おける世界の定期便数は、2020年1月6日の週に比べて43.5%減少した。

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こちらの記事は Kinfolk Volume 33 に掲載されています

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