スーエルは、英国の民俗文化が癒やしとなり、前へ進むための手が かりにもなりうると考えている。BBCの4部構成ラジオシリーズ『My Albion』において、フォークシーンのなかで、複数のルーツを持つ当 事者として抱いてきた複雑な感情を初めて掘り下げたのち、視点を さらに広げている。著書でスーエルは次のように問いかける。「民俗 の遺産を見つめることによって、より進歩的で包摂的な国家アイデ ンティティのビジョンを描き出すことはできないだろうか?」
『Finding Albion』は、スーエルが1年を通して英国各地を旅しなが ら、季節の移ろいを祝うネオ・ペイガン(現代異教主義)の行事を訪ね ていく過程を記している。たとえばストーンヘンジでの春分、古都 ヨークでのハロウィーンにあたる万聖節前夜などだ。スーエルは民 俗(フォーク)という概念を広く捉えており、「支配層によって作られたものではない物語や文化」と定義している。そのため、カリブ文化を祝う大規模な祭典であり、ロンドンの夏の重要な年中行事ノッティングヒル・カーニバルもその範疇に含まれる。
スーエルは、自分自身と同じように、伝統的な「英国らしさ」の象徴にかならずしも共感できない読者を受け入れたいと考えている。 「ユニオンジャックや王室、赤い電話ボックス、警官帽といったものを思い浮かべて、ああ神様、それが私と何の関係があるというの?と思う人もいるでしょう。でも、この国に住みながら英国らしさとは関わりたくないと言うことは、最終的には自分自身の一部を拒んでいることにもなるのです。主流の国家物語とは異なる語りを見つけ、そのなかに自分自身が映し出されるとき、私たちは失われていた自分の一部を取り戻し、より統合された存在になっていくことができるのです」
楽曲が研究のきっかけになることはしばしばある。1908年に商業的に録音された、最初期のフォークソングのひとつとされる “Rufford Park Poachers”もその一例だ。「ひび割れたようなノイズが入っている、とても古くてすばらしい録音で、まるで幽霊のように老人の声がこちらに向かって歌いかけてくるのです」とスーエルは説明する。「そして何度も繰り返し聴いていると、その歌の背後にあるものが見えてきます。糸をたぐるように聴いていくと、その歌の下層に横たわるラディカルな歴史が浮かび上がってくるのです」
歌詞は、1850年代における密猟者と猟区監視官との衝突を描いている。この時代、労働者階級がキジや野ウサギといった動物を狩ることは、密猟法によって禁じられており、飢餓や投獄、さらには追放といった処罰を受けることもあった。一見すると美しい古いフォークソングのように聞こえるが、実際には社会的不正義に対する激しい抵抗の歌である。スーエルはこの事例を、英国史におけるほかの反体制的抵抗と結びつけている。たとえば、19世紀初頭に機械を破壊して工場主に抗議したラッダイト運動や、1817年に政府転覆を試みて処刑されたペントリッチ蜂起の指導者たちなどである。「フォーク は、英国をより公正な場所にしようと戦ってきた、歴史上のこうした瞬間やラディカルな人々とのつながりを私たちに与えてくれるのです。そして歴史こそが、それらのメッセージを解きほぐし、読み解き、明らかにするための道具なのです」
カフェの窓の外を眺めながら、スーエルは一瞬、考えを巡らせているかのような表情を浮かべた。そしてこちらに向き直り、こう続けた。「有色人種の人は、イギリスの歴史は自分たちの歴史ではないと感じる人もいるかもしれません。でもそれは、イギリス人の歴史を別のかたちで捉え直すもうひとつのビジョンなのです。それは、イギリス人がすべて植民地支配や奴隷制に加担していたわけではなく、不正義に抗い命を落とした人々もいたことを示しています。そうした側面を、この国らしい多様な歴史の流れのひとつとして見ることができるはずですし、それをこの土地に属するという感覚のなかに取り込んでいくこともできるのです」
スーエルのクエストは当初、英国の植民地的遺産に汚される以前の前近代的な時代に「ラディカルな理想郷」を見いだそうとする希望から始まった。しかしやがてそのような場所は存在しないということに気づくことになる。どんな民族文化的な歴史を深く掘り下げても、問題を抱えた人物はかならず見つかるのだ。たとえば、“Rufford Park Poachers”を録音したパーシー・グレインジャーは、激しい反ユダヤ主義者であった。また別の例として、15世紀にさかのぼる英国の民俗であり、しばしば嘲笑の対象ともなるモリスダンスがある。 これは、色とりどりのハンカチを振りながら、四角い隊形のなかを舞う踊りである。初めてそれを目にしたとき、「風変わりで、楽しく、陽気で、どこか滑稽で、希望と可能性に満ちている」と感じたという。しかし調査を進めるうちに、モリスダンスには黒塗り(ブラックフェイス)をして踊るダンサーがいるという長い歴史があり、現在でもそれを続けている人々がいることを知る。
「英国について本当に多くのことを学びました。暗さと魔法が交わる場所に生まれる、あの興味深い緊張関係にも強く惹かれています」