『ニューヨーク』誌に寄稿したジェシカ・プレスラーの記事は、ソロキンがいかにしてニューヨークの上流社会に紛れ込んだかを暴露した。石油王の娘、実家はドイツの有名骨董品商などという裕福な出自にまつわる、都合のいい噂を流し、人脈を利用してレーダーをかいくぐり、そもそも持ってもいない金を使い果たしたのだ。数万ドル以上のホテル代、レストラン代、そしてパーソナルトレーニング費を踏み倒した。友人らの好意と信用を使い尽くしたとき、ついにソロキンは逮捕された。プレスラーはこの事件を「現代のマンハッタンの寓話」とし、「かつてないほど金が物を言うようになったが、ほとんどの場合、その裏には隠された条件がつきまとう」と綴った。
ソロキンはそのような見方を否定し、ニューヨークの「一般大衆の認識」に合わせたものだと指摘する。また、自分がとくに浪費家ではなかったとも主張した。「確かにスマートな決断をしてきたとは言えませんが、世間は悪いことにしか目を向けません。私だってたくさんお金を払ってきました」。(実際、デルヴェイは気前よくチップを払うことで知られていた。プレスラーの記事によると、ホテルの従業員たちは、デルヴェイの担当になるために争ったそうだ)
何かを隠そうとしていたわけではない、と話す。永住権を持っていないソロキンは、強制送還されるおそれがあった。「私はただ、永久に誰かから何かを詐取しようという意図はありませんでした。そして誰も、私にそのような意図があったと言えないはずです」。アンナ・デルヴェイ財団設立の目的は、誠実なものだったと主張する。「残念なことに、間違った方向に進んでしまいました。だからといって私が稀代の犯罪者になるわけではありません」
アート財団の構想そのものは間違っていなかったのかもしれない。その証拠に、財団の本部になる予定だったパーク・アベニュー・サウスのビルは、その後スウェーデンの写真団体Fotografiskaが借りたとソロキンは言及する。いくら芸術に適した空間だったとしても、彼女の手口は紛れもなく犯罪的だった。裁判では、ソロキンが電信送金を偽造し、不正な小切手を発行し、家族に仕える財務アドバイザーを装って電子メールを送ったと報じられた(しかし自分が相続人であると発言したことはないと主張)。これまでのソロキンは、自分の犯罪を反省しておらず、また反省すべきとの指摘には腹を立てていた。しかし今日は、自己弁護も謝罪もしない。「それが現実ですから。文句はありません」と肩をすくめた。
今年の 5 月で判決から 5 年 が経 つ 。ソロキンは前進する覚悟を固めているようだ。「今後の人生 で 何かを 成 し 遂 げ、私 に 対する世間 の 見 方 が間違っていることを証明できるかどうか は、本当 に自分次第だと 思います 。50 代 に なってもまだ裁判のことを 話しているよう な、悲しい人間にはなりたくない 。つまらない から 。もう 乗 り 越えたし、自分 の人生 を 生きる ことに問題はないはずです 」
勾留中 に Netflix がプレスラーの記事 を 大々的にドラマ 化した『令嬢アンナの真実』 を 公開したため 、ソロキンの知名度 は確固たるものとなった。9エピソードから成るこの連 続ドラマは、プレスラーの記事の「倫理物語 的」な要素をベースに展開する。ソロキンの 魅惑的な詐欺の手口を取り上げ、また非倫理 的なジャーナリズムに関する完全に架空のプ ロットを導入し、特定の詳細について創造的 なライセンスを取っている。(予告編は「この 物語は完全に真実です。完全に作り話である 部分を除いては」と断りを入れている)。ソロ キンは、このドラマのコンサルタントとして 32万ドルの報酬を受け、その一部は賠償金と 慰謝料に充てられた。服役中に主演のガー ナーと会ったものの、予告編以外は観ていな いと言う。自身に対する描写は「とてもまじめ に見える」と苦笑する。自分ではもっと皮肉屋 だと思っているそうだ。「気まずい感じがしま すね。いつか観るかもしれませんが、もっと観 るべき作品があるような気がします」
少なくとも刑務所では、自身に対する世間の声を聞かずに過ごすことができた。インターネットへのアクセスが制限されていたことは、「ある意味、幸運でした」と話す。「たとえアクセスできたとして、自分自身を検索なんてしませんよね?当時、私について書かれたもので良い内容なんてなかった。ダメージを負うだけでしょう」。けれどもソロキンは宣伝スタッフを雇い、刑務所の中から取材に応じたり、Instagramに投稿したりした。それはおもにソロキンが描いた鉛筆画を販売するための投稿で、作品には「裁判は新しいセックステープ」や「あなただって自分を偽っている」といった自身の社交界の詐欺師イメージを揶揄したタイトルがついていた。ソロキンがまだ収監されていた2022年3月にマンハッタンで開催された『FreeAnnaDelvey』と題された展覧会では、作品が1万ドルで出品されていた。『Artnews』誌はその次の展覧会『Allegedly』を「最大の詐欺行為」と評した。ソロキンはその後、NFTのコレクションを発売している。
ソロキンは現在、Instagramで100万人以 上のフォロワーを持つが、2022年9月を最後 に一度も投稿していない。釈放の条件として、 ソーシャルメディアの使用を禁止されている からだ。アート作品は250ドルから25,000ド ルの価格でオンライン販売されているもの の、いまでは、以前のような反抗的なイメージ とは無縁である。それは「その気になれば逃げ 出せるドアを見つけた」からだという。「たく さんのオファーがきました。“偽の相続人” グッズや“軟禁デート番組”の出演など」と信 じられない様子で話す。
けれども、取材を断るようにし、自分の考え を整理することにしているそうだ。ある程度 影響力を獲得できたので、今度はその使い道 について考えているという。「タブロイド紙に 取り上げられても大した価値はないから、違 うアプローチで行くことに決めました」 軟禁され、強制送還されそうになっても、ソ ロキンは自分の物語の主人公である姿勢を変 えていない。昨年5月にはポッドキャスト 『Anna Delvey Show』を立ち上げ、ジャーナリス トのテイラー・ロレンツや作家のナターシャ・ス タッグといった著名人にインタビューしている。昨年9月のニューヨーク・ファッション ウィーク中には、自宅アパートの屋上でイベン トを開催。ファッションデザイナー、シャオ・ ヤンのプロモーションと、ファッションパブ リシストのケリー・カトローネとソロキンの PR会社OutLawのローンチを発表した。このイ ベントには、『ニューヨークタイムズ』紙の ファッション評論家ヴァネッサ・フリードマン や『リアル・ハウスワイブス』のリア・マクス ウィーニーなど、多くの著名人が出席。2 さら に、セレブゴシップに特化したInstagramア カウント「Deuxmoi」が、アパートの外でグッ ズやソフトクリームを販売した。
OutLawは多くの仕事のオファーを受けて いるが、まだ会社の方向性を決めかねている という。カトローネもニューヨーク州北部に 住んでいるため、ソロキンの釈放の条件とし て義務づけられている当局との面談のため に、毎週彼女を車でマンハッタンまで送迎し ている。ソロキンはまた、俳優兼作家のジュリ ア・フォックスとも定期的にメールのやりと りをしている。フォックスの最近の活躍ぶり から学ぶことが多いそうだ。
ソロキンはセレブ生活やアンナ・デルヴェイ 財団の構想を超えた未来を描いていると話す。 「自分に起きたことを考えると、アート財団を 続けることはできません。もっとおもしろい こと、もっと大切なことがあるような気がし ます」。刑務所での経験が自分を変えたと説明 する。そして法律や政治の道に進むことを考 えていると語った。「刑事司法制度にまつわる 私の実体験は、あまりに乱暴で專断的でした。 間違いや矛盾だらけで、管理もひどい」。自分 が哀れに思えるときはいつも、刑務所で出 会った女性たちのことを考えるという。彼女 たちはまだ服役中だ。「上位1%の富裕層を大 量投獄することによって、刑務所改革はかな り早く進むでしょう」と笑って付け加えた。
ソロキンが何をしても、もはやその知名度 は揺るがないだろう(むしろ有罪になってか ら知名度は増すばかり)。自分の悪評を利用す る一方で、同様のことをする人のことを軽蔑 している。たとえば、元友人で告発者に転じた レチェル・ウィリアムズ。ウィリアムズは『ヴァ ニティフェア』誌の記事を発展させた書籍 『My Friend Anna』を執筆し、同書はベストセ ラーになった。そしてウィリアムズは現在、 『令嬢アンナの真実』での自身の描写をめぐ り、Netflixを名誉毀損で訴えている。訴訟で は、作品の中で自分がソロキンに「たかってい る」ように描かれ、「事実とフィクションの境 界を曖昧にした」と主張している。
ソロキンは最近、その訴訟に召喚されたと いう。「レイチェルはまだこの件でお金を得よ うとしています。永遠に終わりがないようで、 前に進もうとしていない。あんなふうになる のは嫌ですね」と嬉しそうにも、得意げにも聞 こえる声で言った。
「だって、少なくとも私は主役ですから」