• お買い物カゴに商品がありません。
cart chevron-down close-disc
:
  • Arts & Culture
  • Volume 45

ANNA DELVEY

アンナ・デルヴェイ

100万人のフォロワーと犯罪歴。アナ・デルヴェイの今後は? Words by ELLE HUNT. Photos by JOSEFINA SANTOS. Styling by JÈSS MONTERDE.

アンナ・ソロキンは詐欺師と呼ばれることを好まない。「その言葉が心底嫌いです。永遠に騙し続けたり、奪い続けたりするイメージがあるので。私の場合、決してそんなことはありませんでした。もちろん私の偏った見方ですが」

Zoomでこの取材を行ったある月曜の朝、ソロキンはニューヨーク州北部の友人の農場にいた。昨年の11月から滞在しているという。携帯電話を窓に向け、外の様子を見せてくれた。雪がかなり積もっているのが見える。服装はパリやニューヨークで頻繁に目撃されていたパーカーとレギンス。彼女らしく、頭からつま先までオールブラック。しかし今日は、ヒールではなくビーチサンダルを履いている。そして片方の足首には、居場所をGPSで監視するモニターが取り付けられている。

ソロキンは資産家の令嬢「アンナ・デルヴェイ」を偽り、ニューヨークの上流階級の有権者たちに近づき、何年にもわたりアート界や社交界で暗躍。2017年に逮捕された。ソロキンの事件はメディアでセンセーションを巻き起こし、ソロキン役をジュリア・ガーナーが演じるNetflixドラマ『令嬢アンナの真実』が作られたほどだ。しかも制作は大人気プロデューサーのションダ・ライムズ。2019年の裁判では、ソロキンが「アンナ・デルヴェイ財団」という会員制アートクラブをマンハッタンに設立する名目で投資家や不動産業者、知人らから275,000ドルを集めていたことが明らかになった。検察は、この騙し取った金でソロキンが高級ホテルでの生活や高級レストランでのディナー、そして大きな話題となった豪華な旅行といった贅沢なライフスタイルを送っていたと主張した。

(上) AKNVASのドレス、SIMON MILLERのブーツ
(下) STELLA MCCARTNEYのスーツ、THE FRANKIE SHOPのシャツ

重窃盗未遂やプライベートジェット機の窃盗など10件の容疑のうち8件で有罪判決を受 けたソロキンは、約4年間の服役(そのうち19 カ月はニューヨークの悪名高いライカーズ刑 務所に服役した)とさらに18カ月の入国管理 局での拘留を経て、2022年10月に自宅軟禁で釈放された。1

本来なら今頃はニューヨーク市に戻って、 新しい住居に引っ越す予定だった、とソロキンは説明する。貸主の都合とこのところの吹雪で引っ越しが遅れているそうだ。この空いた時間を使って、ようやく自分の人生につい てのドキュメンタリーを執筆し始めることができたという。ソロキンが「日記」と呼ぶその作品は、すでに出版社との交渉に入っており、「自分が書くので物語をよりコントロールできると感じています」と話す。

ソロキンはソビエト連邦崩壊の前年にモスクワの衛星都市で生まれ、ドイツで育った。 2012年から2013年にかけて『Purple』誌のインターンとしてパリで働いていたころ、デル ヴェイと名乗り始めた。2014年にニューヨークに拠点を移すと、間もなく詐欺を始めた。 2018年に『ニューヨーク』誌と『ヴァニティフェア』誌の記事で彼女の詐欺行為が話題になったときには、ソロキンはすでに公判前勾 留中だった。しかも『ヴァニティフェア』誌のそれは、逮捕につながったおとり捜査に協力 したソロキンの元友人、レイチェル・デローチェ・ウィリアムズが執筆したものだった。 ウィリアムズはソロキンを「マンハッタンの魔術師」と形容し、支払うと約束していたモロッコ旅行の旅費62,000ドルを騙しとられ たと主張。(裁判では、ウィリアムズへの詐取 については無罪となった)

( 1 ) ライカーズ島は世界最大の流刑地と言われ、1日の平均収容者数は1万人。全米ワースト10の矯正施設にランクインしている。2019年10月、ニューヨーク市議会は2026年までに同刑務所を閉鎖することを決議した。

『ニューヨーク』誌に寄稿したジェシカ・プレスラーの記事は、ソロキンがいかにしてニューヨークの上流社会に紛れ込んだかを暴露した。石油王の娘、実家はドイツの有名骨董品商などという裕福な出自にまつわる、都合のいい噂を流し、人脈を利用してレーダーをかいくぐり、そもそも持ってもいない金を使い果たしたのだ。数万ドル以上のホテル代、レストラン代、そしてパーソナルトレーニング費を踏み倒した。友人らの好意と信用を使い尽くしたとき、ついにソロキンは逮捕された。プレスラーはこの事件を「現代のマンハッタンの寓話」とし、「かつてないほど金が物を言うようになったが、ほとんどの場合、その裏には隠された条件がつきまとう」と綴った。

ソロキンはそのような見方を否定し、ニューヨークの「一般大衆の認識」に合わせたものだと指摘する。また、自分がとくに浪費家ではなかったとも主張した。「確かにスマートな決断をしてきたとは言えませんが、世間は悪いことにしか目を向けません。私だってたくさんお金を払ってきました」。(実際、デルヴェイは気前よくチップを払うことで知られていた。プレスラーの記事によると、ホテルの従業員たちは、デルヴェイの担当になるために争ったそうだ)

何かを隠そうとしていたわけではない、と話す。永住権を持っていないソロキンは、強制送還されるおそれがあった。「私はただ、永久に誰かから何かを詐取しようという意図はありませんでした。そして誰も、私にそのような意図があったと言えないはずです」。アンナ・デルヴェイ財団設立の目的は、誠実なものだったと主張する。「残念なことに、間違った方向に進んでしまいました。だからといって私が稀代の犯罪者になるわけではありません」

アート財団の構想そのものは間違っていなかったのかもしれない。その証拠に、財団の本部になる予定だったパーク・アベニュー・サウスのビルは、その後スウェーデンの写真団体Fotografiskaが借りたとソロキンは言及する。いくら芸術に適した空間だったとしても、彼女の手口は紛れもなく犯罪的だった。裁判では、ソロキンが電信送金を偽造し、不正な小切手を発行し、家族に仕える財務アドバイザーを装って電子メールを送ったと報じられた(しかし自分が相続人であると発言したことはないと主張)。これまでのソロキンは、自分の犯罪を反省しておらず、また反省すべきとの指摘には腹を立てていた。しかし今日は、自己弁護も謝罪もしない。「それが現実ですから。文句はありません」と肩をすくめた。

今年の 5 月で判決から 5 年 が経 つ 。ソロキンは前進する覚悟を固めているようだ。「今後の人生 で 何かを 成 し 遂 げ、私 に 対する世間 の 見 方 が間違っていることを証明できるかどうか は、本当 に自分次第だと 思います 。50 代 に なってもまだ裁判のことを 話しているよう な、悲しい人間にはなりたくない 。つまらない から 。もう 乗 り 越えたし、自分 の人生 を 生きる ことに問題はないはずです 」

勾留中 に Netflix がプレスラーの記事 を 大々的にドラマ 化した『令嬢アンナの真実』 を 公開したため 、ソロキンの知名度 は確固たるものとなった。9エピソードから成るこの連 続ドラマは、プレスラーの記事の「倫理物語 的」な要素をベースに展開する。ソロキンの 魅惑的な詐欺の手口を取り上げ、また非倫理 的なジャーナリズムに関する完全に架空のプ ロットを導入し、特定の詳細について創造的 なライセンスを取っている。(予告編は「この 物語は完全に真実です。完全に作り話である 部分を除いては」と断りを入れている)。ソロ キンは、このドラマのコンサルタントとして 32万ドルの報酬を受け、その一部は賠償金と 慰謝料に充てられた。服役中に主演のガー ナーと会ったものの、予告編以外は観ていな いと言う。自身に対する描写は「とてもまじめ に見える」と苦笑する。自分ではもっと皮肉屋 だと思っているそうだ。「気まずい感じがしま すね。いつか観るかもしれませんが、もっと観 るべき作品があるような気がします」

少なくとも刑務所では、自身に対する世間の声を聞かずに過ごすことができた。インターネットへのアクセスが制限されていたことは、「ある意味、幸運でした」と話す。「たとえアクセスできたとして、自分自身を検索なんてしませんよね?当時、私について書かれたもので良い内容なんてなかった。ダメージを負うだけでしょう」。けれどもソロキンは宣伝スタッフを雇い、刑務所の中から取材に応じたり、Instagramに投稿したりした。それはおもにソロキンが描いた鉛筆画を販売するための投稿で、作品には「裁判は新しいセックステープ」や「あなただって自分を偽っている」といった自身の社交界の詐欺師イメージを揶揄したタイトルがついていた。ソロキンがまだ収監されていた2022年3月にマンハッタンで開催された『FreeAnnaDelvey』と題された展覧会では、作品が1万ドルで出品されていた。『Artnews』誌はその次の展覧会『Allegedly』を「最大の詐欺行為」と評した。ソロキンはその後、NFTのコレクションを発売している。

ソロキンは現在、Instagramで100万人以 上のフォロワーを持つが、2022年9月を最後 に一度も投稿していない。釈放の条件として、 ソーシャルメディアの使用を禁止されている からだ。アート作品は250ドルから25,000ド ルの価格でオンライン販売されているもの の、いまでは、以前のような反抗的なイメージ とは無縁である。それは「その気になれば逃げ 出せるドアを見つけた」からだという。「たく さんのオファーがきました。“偽の相続人” グッズや“軟禁デート番組”の出演など」と信 じられない様子で話す。

けれども、取材を断るようにし、自分の考え を整理することにしているそうだ。ある程度 影響力を獲得できたので、今度はその使い道 について考えているという。「タブロイド紙に 取り上げられても大した価値はないから、違 うアプローチで行くことに決めました」  軟禁され、強制送還されそうになっても、ソ ロキンは自分の物語の主人公である姿勢を変 えていない。昨年5月にはポッドキャスト 『Anna Delvey Show』を立ち上げ、ジャーナリス トのテイラー・ロレンツや作家のナターシャ・ス タッグといった著名人にインタビューしている。昨年9月のニューヨーク・ファッション ウィーク中には、自宅アパートの屋上でイベン トを開催。ファッションデザイナー、シャオ・ ヤンのプロモーションと、ファッションパブ リシストのケリー・カトローネとソロキンの PR会社OutLawのローンチを発表した。このイ ベントには、『ニューヨークタイムズ』紙の ファッション評論家ヴァネッサ・フリードマン や『リアル・ハウスワイブス』のリア・マクス ウィーニーなど、多くの著名人が出席。2 さら に、セレブゴシップに特化したInstagramア カウント「Deuxmoi」が、アパートの外でグッ ズやソフトクリームを販売した。

OutLawは多くの仕事のオファーを受けて いるが、まだ会社の方向性を決めかねている という。カトローネもニューヨーク州北部に 住んでいるため、ソロキンの釈放の条件とし て義務づけられている当局との面談のため に、毎週彼女を車でマンハッタンまで送迎し ている。ソロキンはまた、俳優兼作家のジュリ ア・フォックスとも定期的にメールのやりと りをしている。フォックスの最近の活躍ぶり から学ぶことが多いそうだ。

ソロキンはセレブ生活やアンナ・デルヴェイ 財団の構想を超えた未来を描いていると話す。 「自分に起きたことを考えると、アート財団を 続けることはできません。もっとおもしろい こと、もっと大切なことがあるような気がし ます」。刑務所での経験が自分を変えたと説明 する。そして法律や政治の道に進むことを考 えていると語った。「刑事司法制度にまつわる 私の実体験は、あまりに乱暴で專断的でした。 間違いや矛盾だらけで、管理もひどい」。自分 が哀れに思えるときはいつも、刑務所で出 会った女性たちのことを考えるという。彼女 たちはまだ服役中だ。「上位1%の富裕層を大 量投獄することによって、刑務所改革はかな り早く進むでしょう」と笑って付け加えた。

ソロキンが何をしても、もはやその知名度 は揺るがないだろう(むしろ有罪になってか ら知名度は増すばかり)。自分の悪評を利用す る一方で、同様のことをする人のことを軽蔑 している。たとえば、元友人で告発者に転じた レチェル・ウィリアムズ。ウィリアムズは『ヴァ ニティフェア』誌の記事を発展させた書籍 『My Friend Anna』を執筆し、同書はベストセ ラーになった。そしてウィリアムズは現在、 『令嬢アンナの真実』での自身の描写をめぐ り、Netflixを名誉毀損で訴えている。訴訟で は、作品の中で自分がソロキンに「たかってい る」ように描かれ、「事実とフィクションの境 界を曖昧にした」と主張している。

ソロキンは最近、その訴訟に召喚されたと いう。「レイチェルはまだこの件でお金を得よ うとしています。永遠に終わりがないようで、 前に進もうとしていない。あんなふうになる のは嫌ですね」と嬉しそうにも、得意げにも聞 こえる声で言った。

「だって、少なくとも私は主役ですから」

( 2 ) ソロキンがニューヨークに移る前にパリでインターンをしていたファッション誌『Purple』の創刊者兼編集長のオリヴィエ・ザームも出席していた。

( 2 ) ソロキンがニューヨークに移る前にパリでインターンをしていたファッション誌『Purple』の創刊者兼編集長のオリヴィエ・ザームも出席していた。

a

こちらの記事は Kinfolk Volume 45 に掲載されています

購入する

Kinfolk.jpは、利便性向上や閲覧の追跡のためにクッキー(cookie)を使用しています。詳細については、当社のクッキーポリシーをご覧ください。当サイトの条件に同意し、閲覧を続けるには「同意する」ボタンを押してください。