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At Work With: Dr. Bronner’s Magic Soaps

仕事場 ドクターブロナーのマジックソープ

  • Arts & Culture
  • Volume 52

ひとつの石けん、18通りの使い方、そして尽きることのない哲学的なメッセージ――象徴的なオールインワンクリーナーが織りなす、風変わりでサイケデリックな世界を探る。
Words by Robert Ito . Photos by Luke Lovell.

ドクターブロナー・マジックソープの創業者エマニュエル・ブロナーは、ドイツ系ユダヤ人の 石けん製造業者一族の末裔として生まれた。同族経営の始まりは1858年に遡り、ブロナーはそ の伝統を受け継いだ。家族の言い伝えによれば、手がけた石けんがツェッペリン飛行船にも積 まれていたほど、ブロナーは優れた石けん職人だった。

しかし独自の道を切り開くため、家業を 継がず1929年、わずか21歳でアメリカへ渡った。すぐにアメリカの石けん会社のコンサルタン トとして仕事を得たが、胸が張り裂けるような悲劇(ナチスの強制収容所での両親の殺害、1944 年の妻ポーラの死)を次々と経験し、ある啓示を得た。「滅亡の瀬戸際に立つこの世界で、人類が 結束し、同じ神聖な源から生まれたひとつの大きな家族であると認識しなければ、我々は終わ りだ」と確信したのだ。そして1948年、ブロナーは会社を設立し、平和のメッセージ「みんなひ とつになるか、誰もいないか」を意味する「All-One or None!」のビジョンを説くため全国を巡 業し始めた。講演後には、自然由来で生分解性の石けんを無料で配布した。

この記事では、エマニュエルの孫デイビッド・ブロナーに取材をするこ とができた。ハーバード大学卒のデイビッドは、元メンタルヘルスカ ウンセラー、現在はドクターブロナー・マジックソープ社のCEOを 務めている。ちなみにCEOはCosmic(宇宙的)Engagement(関与) Officer(責任者)の頭文字だという。「祖父の巡業の噂は広まりまし たが、みんな石けんがほしくて来るだけで、祖父の説教を聞きたがら なかった。そこで祖父は自分の哲学を商品のラベルに記すことにした のです。トイレに入ったとき、たまたま読むものがなければ、祖父の メッセージを目にしてもらえるだろうと考えて」。

ドクターブロナー のソープやサニタイザー、歯磨き粉、リップバームを使ったことがあ る人なら、あの特徴的なラベルを覚えているだろう。気候危機や再生 農業、工場式畜産の弊害などについて、ぎっしり詰まったメッセージ が、笑えるほど小さな文字で印刷されているのだ。「菌類は家族だ!」 と叫ぶ1行があると思えば、「毎日、鳥のようにまず己を磨き、勇気を 持ち、微笑んでおくれ、友よ」と語りかける1節もある。さらに成分リスト に加え、エイブラハム・リンカーンやラドヤード・キップリングといった 偉人たちの言葉も添えられている。

「全盛期には、1リットルのボトルにはおそらく3000語に及ぶ説明 が書かれていました」とデイビッドは語る。カリフォルニア州ビス タに本社を置く同社は、数年前には避妊の家庭療法(レモンを使った 膣洗浄後にドクターブロナーの石けんを使用する方法だった)の説 明文を削除し、最近では読みやすさを向上させるためアイコンを追 加した。しかしそれ以外は、ラベルはほとんど変わっていない。

もち ろんドクターブロナーのマジックソープのもっとも強い主張のひと つ「18もの用途がある」という点も記載されている。食器洗い、シェー ビング、洗濯、床のモップがけ、トイレ掃除、さらには歯磨きにも使 えるという。その多様性と可能性の幅を考えると、18という数字は 妙に具体的に感じる。「18という数字は、まあ、適当に選んだだけだと 思います」とデイビッドは語る。トイレ用洗剤で歯を磨いたり、歯磨 き粉でムダ毛を剃ったりしたいと思うかどうか微妙だ。「万能ソープ なので何でも使えます」と言いつつも「でも手や体を洗うのにもっと も適していますね」と認める。

数十年にわたり、ドクターブロナーのソープは人気を博しているが、とくに1960年代のカウンターカルチャーの台頭と、人類が地球 に与える生態系破壊への懸念の高まりが追い風となった。「この世代 はよりシンプルな生活、地球に寄り添う生き方を模索し、ベトナム戦 争をやめさせようとしていました」とデイビッドは語る。「祖父の石 けんは当時の精神と完璧に合致していました。経済的な濃縮タイプ で生分解性に優れ、川辺で髪や犬、食器を洗っても環境への心配は不 要。さらにラベルには平和を訴えるクールなメッセージが刻まれて いたのですから」

しかし、同社の初期の客と同様に、後の世代も商品そのものには共 感しても、その背景にある思想にはあまり共感しなかった。これはエ マニュエルにとっては受け入れがたい現実だった。「祖父にとって、ビ ジョンを伝えることこそがすべてでした」とデイビッドは語る。「も ちろん石けんも大切でしたが、それはあくまでメッセージを伝える 手段に過ぎませんでした。大抵の商品ではラベルは製品を説明する ための手段。けれども弊社の場合、ラベルこそが本質だった。祖父に とって重要なのは『宇宙船地球号』という理念で人々を結びつけるこ とでした」

祖父と同様に、デイビッドも家業を継ぐことにはほとんど関心が なかったという。1991年にハーバード大学へ進学し、アメリカンフッ トボールとラグビーのチームに所属し、生物学を専攻した。「医者に なるつもりでした。でも大学卒業後、信じられないほど強烈なサイケ デリック体験をしたのです。自我の死を経験し、存在の核心にある愛 と光へ溶け込んでいくような感覚でした。その瞬間、祖父の言ってい たことが正しかったと悟りました。あらゆる類の信仰は、その信念を 偶像化し、互いを悪魔視しない限り、究極的にはこの超越的な愛を指 し示しているのだと」

アムステルダムに滞在し、カンナビス事業での起業を考えていた 時期や、メンタルヘルス・カウンセラーとして1年半働いた経験を経 て、デイビッドは北カリフォルニアを拠点とする作家・起業家ポー ル・ホーケンの共著による経済書『Natural Capitalism(原題)』に出 会った。「ビジネスが社会と生態系の善のために力を発揮する方法に ついて書かれた本でした。労働や環境に関するあらゆる責任ある規 制と闘うような、後ろ向きな存在である必要はないのです」

「川辺で髪や犬、 食器を洗っても 環境への心配は不要。 さらにラベルには 平和を訴える クールなメッセージが 刻まれていたのですから」

『Wirecutter』誌は、無香料のドクターブロナー石けんを「2025年ベスト固形石けん」のひとつに選出した。ティーツリーやユーカリなどが配合された、清涼感をもたらす同ブランドの香り付き製品とは異なり、無香料タイプはとくに肌に優しい。

その本を読んだことで、デイビッドは家業に加わり、祖父が掲げた統 一と世界平和のビジョンを実現するために働く決意を固めた。「現在 は、どうしたら世界を統一でき、持続可能な環境で暮らせるかについ て、より現実的なアプローチを取っている状態だと言えるでしょう」

1998年、デイビッドが会社に加わって間もなく、両親はサンディ エゴにある約400ヘクタールの土地(「私たちの全資産の3分の1の 値段でした」)を子どもを支援する非営利団体に寄贈した。「この出 来事が、私と、弟で社長を務めるマイクにとって、どんな会社を作る べきかという指針となったのです」。それ以来、ドクターブロナー社 は動物の権利保護やフェアトレード調達から再生有機農業、薬物政 策改革に至るまで、さまざまな社会活動支援のために数百万ドルを 寄付してきた。「過去20年間で約1億ドルを寄付してきました」

ブロナー家は、社内においても所得格差の拡大という問題に対処 しようと試みている。従業員に生活賃金を支払い、5対1の給与上限 制度を導入した。これはデイビッドのような経営幹部の報酬が、もっ とも低い賃金を得ている従業員の5倍を超えてはならないという制 限を意味する。

同社が取り組む数多くの社会貢献活動のなかでも、デイビッドが とくに力を入れているのがサイケデリック薬物だ。ドクターブロ ナー社は国内有数のサイケデリック研究支援団体となり、PTSDや 依存症、不安障害、うつ病など多様な疾患治療への応用を推進すると ともに、その非犯罪化を提唱している。デイビッド自身も約3カ月ご とに、ペルー原産の幻覚作用のある精神活性物質メスカリンが含ま れたサボテン「ワチュマ」を摂取している。「家の裏庭にたくさん植え ているんです」

サイケデリックで肯定的なメッセージは、アイコニックなラベル にもちりばめられている。たとえば、「魂を癒やすためのサイケデ リック支援療法を支持しよう!」といったように。同社特有の細かい 文字で埋め尽くされた商品ラベルは、長年にわたり、他社から遠慮の ないかたちで模倣されてきた。しかしデイビッドによれば、祖父は 「一般的なマーケティングの常識をことごとく無視して」あのラベル を生み出したのだという。「文字とグラフィックを組み合わせた、あ あした表現方法を真似する会社はありますが、そこには私たちのよ うな魂や情熱、真正さが感じられません。他社にとってはマーケティ ングの一環なのでしょうが、祖父にとってそれは、いちばん関心のな いことだったのです」

確かに、あのラベルは、何千もの単語と訴えかけ、感嘆符(「水で薄めて!薄めて! OK !」)が並ぶ、紛れもな い特徴的なデザインだった。しかしそれは、ブ ランディング戦略というより、むしろ偶然の 産物だったという。「実は祖父は70年代初頭 に失明しているんです」とデイビッドは語る。 「目が見えない人がデザインしているので、本 人が文字の小ささをどれほど認識していたか どうかさえ疑わしいのです! でも祖父が自 身のメッセージを貫き通したことは確かで す」

「目が見えない人が デザインしているので、 本人が文字の小ささを どれほど認識していたか どうかさえ疑わしいのです」

商品は使用済みペットボトルから作られた100%再生プラスチックボトルに詰められていて、その製造には「使用済みボトルから新たなボトルへ」というリサイクルプロセスが採用されている。原料となる樹脂の大部分はカリフォルニア州内で調達されている。

カスチール石けんは、数世紀にわたる伝統技術である、油脂を石けんに変える製法で作られる。ドクターブロナーの製法では、ココナッツ油、パーム油、オリーブ油、ヘンプ油を混合し、加熱・精製し後、苛性ソーダと混合する。アルカリ性の苛性ソーダが油脂と反応すると、その腐食性は失われ、混合物は石けんへと変化し、天然由来のグリセリンがそのまま残る。

商品は使用済みペットボトルから作られた100%再生プラスチックボトルに詰められていて、その製造には「使用済みボトルから新たなボトルへ」というリサイクルプロセスが採用されている。原料となる樹脂の大部分はカリフォルニア州内で調達されている。

カスチール石けんは、数世紀にわたる伝統技術である、油脂を石けんに変える製法で作られる。ドクターブロナーの製法では、ココナッツ油、パーム油、オリーブ油、ヘンプ油を混合し、加熱・精製し後、苛性ソーダと混合する。アルカリ性の苛性ソーダが油脂と反応すると、その腐食性は失われ、混合物は石けんへと変化し、天然由来のグリセリンがそのまま残る。

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こちらの記事は Kinfolk Volume 52 に掲載されています

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