しかし、今日のライフコーチングの形式は、以前に 比べてスピリチュアル性をあまり帯びていない。ライ フコーチングは、「瞑想のような実践を生活に取り入れ るも、組織化された宗教を敬遠する層」のための自己啓 発を目的としている。現在この業界は規制されておら ず、複数の資格認定団体が認定講師を輩出している。4 「野放し状態です。誰でもライフコーチと名乗ること ができます」とゴールドマン。
ライフコーチを養成している団体のひとつが「国際 コーチング連盟(ICF)」。ICFの創設者であるトーマス・ レナードは、現代のムーブメントの創始者であると 言っても過言ではない。レナードは、70年代に受講者 に急激な自己変革を約束するワークショップを開催 していたエアハルトセミナー(通称エスト)の出身者 である。
レナードはその後、この種のセミナーをライフコー チングと呼ぶことを主張し、世界中の何百人ものコー チと遠隔授業を行ってこの分野を定義することに務め た。彼は友人でありコーチ仲間のデイブ・バックと一 緒に2000年にライフコーチのトレーニングアカデ ミー「コーチヴィル(CoachVille)」を設立。バックは、 彼らのコーチングのビジョンは、反ヒエラルキー的な 「平等主義的な共同創造的ムーブメント」であると 語っている。5 北米でのコーチング開発の黎明期に、 バックとレナードはコミュニティと認定機関の創設の 必要性について考えた。「認定証があれば、信頼性と権 威性が生まれますよね?」とバックは私に言った。し かしこの考えは、バックが先ほど私に話してくれた コーチングの平等主義的な倫理観に反しているように 思われる。さらに彼は自身のプロフィールに「プロの コーチングの歴史において7番目にもっとも影響力の ある人物」と書いている。これらを指摘すると彼は、 「そうありたいと願う姿と現実の自分との間には葛藤 がある」と、ややあいまいな表現で矛盾を認めた。
前回のICFの調査では、2019年の世界のコーチ数は 7万1000人と推定されており、2015年の推定値よりも 33%増加している。市場の需要に比べてライフコーチ の数が多すぎるように思えるかもしれないが、パンデ ミックにより悪化した不安定な経済が、供給を増やし ているようだ。仕事を失った人にとっては、参入障壁 の低い業界である。私が興味本位で参加した新米ライ フコーチのFacebookグループでは、以前はホテルのマ ネージャーやバーテンダーだったという人々が少なか らずいた。ゴールドマンによると、まったく関係ない 職種のアルバイトとかけ持ちしながらライフコーチ をしている人が大多数いるとのことだった。
ソーシャルメディアはコーチングを民主化した。そ して今では、最先端の流行と融合している。TikTokの 10代の若者たちのなかには「マニフェスト」と称して、 瞑想したり、熟考したり、人生の目標を設定したりす る人もいる。ライフコーチという表現は使っていない が、フォロワーにとって彼らはライフコーチのような 存在である。6
ライフコーチングは、「マズローの欲求5段階説」の 底辺に到達することすら困難な人が多いという現代 社会の構造的な問題を解決するものではないかもしれない。しかし中間層に位置する人たちが頂点を目指 す場合には、ライフコーチの存在が魅力的に映るだろ う。バークとのセッションの終盤で、彼女は「私たちは 『足場』を組み、『小さな一歩』を踏み出していきます」 と言った。そして私はどんな「一歩を踏み出す」のか伝 え、必ず実行すると彼女に誓った。もし私が定期的に 彼女からセッションを受ける正規のクライアントに なったら、2週間後に彼女は私が実行したかどうか確 認するだろう。ライフコーチングは、人生のすべてを 変えることはできない。しかし、何かを変えることが できるという感覚を与えてくれるものだと実感した。