• お買い物カゴに商品がありません。
cart chevron-down close-disc
:

DANCING WITH ALICE SHEPPARD
アリス・シェパードと舞う

身体と対話するためのダンスについて。たとえそこに痛みが伴うとしても。
Words by Louise Bruton. Photography by Ted Belton. Hair & Makeup by Avery Golson.

  • Arts & Culture
  • Volume 40

身体と対話するためのダンスについて。たとえそこに痛みが伴うとしても。
Words by Louise Bruton. Photography by Ted Belton. Hair & Makeup by Avery Golson.

イギリス出身の振付家兼ダンサーである アリス・シェパードがダンスの世界に足を 踏み入れたのは、ある思いつきからだった。 障害学の会議で出会った障害者ダンサーに 刺激され、英語と比較文学の講師だった彼 女は 2004 年に初めてダンスのレッスンを 受けた。Infinity Dance Theater の障害者 活動家キティ・ランのもとでバレエ、モダン ダンス、車椅子のテクニックを学び、3 年後 には AXIS Dance Company のツアーメンバーとなった。2012 年にはインディペンデ ントアーティストとして Ballet Cymru、 GDance、Full Radius Danceなどのダンス 集団の公演に出演していたが、まもなく独 自の挑戦をすることに。2016 年に障害者 アートアンサンブル Kinetic Light を設立 した彼女は、アーティスティックディレク ターとして障害者文化とつながり、そこから引き出される作品を創り出すというビ ジョンを持っている。いまはニューヨークとサンフランシスコという、彼女がホーム と考える対照的な2都市を行き来しながら、「仕事があればどこでも行く」と話す。

私自身も車椅子を使うので、シェパード と私は同じ目線に立ち、そしてこの共通点 がお互いの距離を縮めていった。芸術的表 現とセルフケアをめぐる会話のなかで、私 たちは笑い、深く考えながらテーマを掘り 下げる。シェパードは、障害者アーティス トに向けられる質問の背後にある意味を しっかり把握している。たとえば「ダンスは あなたのウェルビーイングにどのように貢 献しているか?」といった質問。この場合、 「質問者が実際に知りたいのは、ダンスをす ることで私の障害が良くなるか?というこ とです」。しかし、これは彼女が答えたいと思うような質問ではない。

セレブによって商品化されたウェルネス 文化に呆れながらも、シェパードは障害者のウェルビーイングがいかに環境に依存しているかを熱心に語る。たとえ、その環境が自分自身で作らなければならないものだとしても。

初めてダンスに触れたのはいつですか?

直後ではありませんでしたけど、障害者 になって間もない頃です。私は毎年友人 たちとくるみ割り人形を観に行くのです が、2 幕が始まってすぐに感情が抑えられ なくなりました。まるでこの世のものと は思えないほど、涙があふれ出てきたの です。気まずかったです。みんなは私が障 害を持っているために舞台上のような踊 りができないから泣いていると思ったで しょう。でもそうじゃありませんでした。 少なくとも、私のなかではそうではな かったのです。なぜ涙があふれたのか、い までもわかりません。

あなたはウェルネス文化をどのように見ていますか?

私は、現代のウェルネス文化と障害者の 世界とを分けて考えたいと思っていま す。健常者の多くは「障害は病気ではな い」という考え方が理解し難いようです。 たしかに病気や慢性疾患を持つ障害者は 山ほどいますが、障害自体は病気ではな いのです。このような障害者が抱える葛 藤や権利は、ニューエイジの精神主義と フィットネスや食事療法を混ぜたよう な、現代のウェルネスとは別のものだと 思っています。

NOTE:
この特集のキャプションは、
写真の解説文として書かれています。

誰もいないスタジオで、ブロンドのカーリーヘアーの多民族黒人女性、アリス・シェパードをモノクロで撮影。車椅子で踊りながら地面に向かって飛び込む横顔。腕は後ろに伸び、松葉杖を持っている。

明日、あなたからダンスが奪われるとしたらど う思いますか?

打ちのめされるでしょうが、どうにか耐 えられるでしょう。私は身体とその可能 性に限りなく魅了されています。私たち はこの身体のなかで生きていて、何かを したり、感じたり、反応したり、しなかっ たりします。心と身体との関係は素晴ら しい。私はダンスから身体に注意を向け ることを教わりました。ステージ 上で振付をしなくても、私は動き を解釈し、体を通して世界を感じ ているのです。照明や舞台、そし て正式なトレーニングがすべて なくなったとしても、身体がなく なることはありません。

自分の身体の声に耳を傾けなかった ことはありますか?

私は身体の声に反応したことな んてありません! ダンサーは いつでも自分の身体の声に耳を 傾け、その反応を無視するように 鍛えられています。たとえ身体が 「痛い!」や「疲れた!」と叫んで も、続けなければならない。メイ ンストリーム(健常者)のダン サーがこのように自分の身体と 格 闘 するのを 見 てきました。 Kinetic Light では、信じられな いほど美しい作品を「身体にとっ てサスティナブルな方法」で作る ことができればと思っています。

ダンサーとして自分を追い込みつつ、セルフ ケアもできる環境を作るにはどうしたらいい でしょうか?

それはプロのダンサー、特に障害を持っ たダンサーにとっては大きな問題だと思 います。自分の身体を限界まで追い込む 必要はないのです。ダンスとはそういう ものではありません。そのような考え方 はやめて、ダンスは身体の表現であると 考えましょう。ダンスとは自分の身体を コントロールすることでもありません。 Kinetic Lightのダンスは肉体的にきつい ですが、リハーサルの前に自分の身体と 向き合うようにしています。大切なのは 身体を作ることです。筋力という意味で はなく、自分の身体を探求し、知ること で、それを鍛えることができるのです。自 分の身体の状態を知り、どのように動く のがベストなのか理解すること。そして 自分のしたいことをするために、身体を 強化しセルフケアするためのサポートを すること。ある人にとって、サポートとセ ルフケアは何時間もジムに通うことかも しれません。他の人にとっては、複数のダ ンス教室に通ってメインストリーム(健常者用)の教育を受けることかもしれま せん。また、そのどれにも当てはまらない 人もいます。

Kinetic Lightのメンバーは全員、障害を持っ たアーティストです。共同作業で身体を操り ながら、障害、人種、クィアネスというテーマ を探求するなかで、どのようにしてチームの 全員の意見を聞いているのでしょうか?

私たちは小さなチームですが、メンバー はみんなこの芸術に対して強い意見を 持っています。私たちが使う比喩のひと つに「野生の馬の群れのようなもの」とい う表現があります。私は馬たちをひとつ の方向に誘導する方法を学んでいるとこ ろです。ローレル・ローソン(ダンサー/ テクノロジーリード/振付家)、ジェロ ン・ハーマン(ダンサー/振付家)、マイケ ル・マーグ(空間演出家)は素晴らしい アーティストです。ですから、ここで問題 になるのは、何が作品に役立つのか?  それをどのように表現するのがベストな のか? 健常者は、障害者が作る作品と いえば医学的な話や個人的な苦難の話ば かりだと思いがちです。しかしそうでは ありません。何をテーマにするかは自由 です。自分の障害や人種、クィアであるこ とのトラウマなど、誰かが期待するス テージに立つ必要はないのです。

舞台に向けて行うセルフケアは?

普段の生活とあまり変わりません。舞台 があるからといって、いきなり食事を変 えるわけでもありません。練習して、食べ て、仕事して、寝るといういつもの習慣を 続けるだけです。

舞台の後は息抜きが必要ですか?

舞台のテンションから抜け出すまで時間 がかかります。ツアーが終わると大変な 状態になっていますよ。

どんな感じになるのですか?

私はセルフケアすることを学びました。 舞台が終わって、明日も舞台に立てるよ うに自分の体をケアするのです。夜中の 1 時まで外でパーティなんてしませ ん。家に帰ってケアをしなければな りませんから。身体を氷で冷やし て、ストレッチして、温めて、ちゃ んと食事も摂ります。本番前はあま り食べられませんから。幕が閉じた からといって、舞台上でのエネル ギーがすぐに落ち着くわけではあ りません。

アドレナリンを和らげる工夫はして いますか?

一晩中アドレナリンが出ていると 眠れませんから。身体にアドレナリ ンを処理させて、舞台上での精神状 態から自分のペースで抜け出すよ うにします。そしてそれに伴って生 じる感情をうまく利用するのです。 舞台の後に砂糖やアルコールを大 量に摂取してはダメ。どのように身 体を休めるべきか、誰と一緒にいる べきかを学ぶのです。

プロのダンサーにずっと聞いてみたかったこ とがあります。あなたの友人は、あなたと一緒 に踊りに行くのをためらっていませんか?

そうかもしれません(笑)。でもそれは私 が障害者ダンサーになる前からです。私 は踊りに行くのが大好きでした。何時間 も踊り続け、時間とともにどんどんワイ ルドになっていきました。より速く、より 高く、よりセクシーに、より汗をかくよう に動くことがすべてでした。自分が誰な のかわからなくなり、誰にでも、何にでも なれるような気がしたものです。いまで は、遊びで踊るのは、パーティや友人と一 緒にいるときや、街角でそういう瞬間が 訪れたりするときだけ。クラブは無理で すね。たとえクラブに行ったとしても、フ ロアが狭いので思い切り楽しむことがで きません。ぶつかったり、お酒を顔にこぼ されたりするでしょう。

遊びで踊るときは、何を踊りますか?

これはシャワーでの鼻歌のようなもので すよね? 80年代のものなら何でも (笑)。プロの歌手はシャワーで何を歌っているのでしょうね?

シェパードが正座しながら腕と松葉杖を上に伸ばしている。画像はぼやけている

シェパードが正座しながら腕と松葉杖を上に伸ばしている。画像はぼやけている

スクリーンショット 2023-03-30 15.24.39

こちらの記事は Kinfolk Volume 40 に掲載されています

購入する

Kinfolk.jpは、利便性向上や閲覧の追跡のためにクッキー(cookie)を使用しています。詳細については、当社のクッキーポリシーをご覧ください。当サイトの条件に同意し、閲覧を続けるには「同意する」ボタンを押してください。