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  • Design
  • Volume 34

スタジオにて:
ディエベド・フランシス・ケレ

ブルキナファソの小学校から世界へ。ロマンと実用性を融合させた建築家。
Words by Nana Biamah-Ofosu. Photography by Daniel Farò.

ディエベド・フランシス・ケレの最初の建築 が完成してから約20年が経過した。その作品 第一号とは、彼の故郷であるブルキナファソ のガンドに建てた小学校。それ以来、ケレはア フリカを代表する建築家のひとりとなった。 工芸品や伝統、文化的なつながりに裏打ちさ れた、人々やコミュニティを称賛する作品を 生み出す建築家として知られている。  彼はこれらの才能により、2004年のアガ・ カーン賞建築部門を受賞。その後、ケレはベル リンにスタジオを構え、ブルキナファソから アメリカまで世界各地のプロジェクトに携わ り、国際的な成功を収めている。ガンドの小 学校の他にも、同じくブルキナファソのリセ・ ショルジェ中学校などの代表的な作品があ る。中庭を中心に放射状に配置された9つの モジュールから構成される校舎で、主に地元 で採掘されたラテライト石材を使用し、副次 的にファサードにはユーカリの木が使われて いる。2017 年のロンドンのサーペンタイン・ ギャラリー・パヴィリオンでは、透明な素材と 木材を使った天蓋をデザインした。彼の故郷 で木の下に人々が集まることが着想源となっ ている。2021 年春に着工したベナンの国民議 事堂のような大規模プロジェクトにおいて も、文化の継承と、素材、構造、工芸における 純粋性への関心は尽きない。また、優れた教育 者という一面も持つケレは、現在ドイツの ミュンヘン工科大学の教授を務めている。  今回の取材は、ロンドンとベルリンを Zoomでつないで行った。多岐にわたる話題 について話した結果、ケレにとって建築とは、 つねに「ものづくり」「文化」「コミュニティ」の 3つに帰結することがわかった。

ガンドは「自分を育ててくれた村」だそうです が、建築に関するもっとも古い記憶は何です か?

Photography DANIEL FARÒ 建築に関する一番古い記憶は、ガンドで暮 らしていた子どもの頃、家の中庭で遊んで いたことや、夜になると祖母を囲んでみん なで輪になって座っていたこと。そういう人々の交流があってこそ建物が生き生きと しているように感じました。祖母の声と祖 母が語る物語を吸収しようとする私たちの 体の動きが作る素晴らしい雰囲気から、包 まれている感覚や安心感を得ることができ たんです。また、建築の仕事については、雨 季になると建物を修理する大変な仕事、と いうように感じていました。ですから、建築 はロマンチックであると同時に実用的な存 在でした。

この初期の記憶は、ドイツの大学で学んだ際 にどのように反映されたのでしょうか? 特 に卒業制作として手がけたガンドの小学校の 場合はどうでしたか? 1

私は学生たちに、卒業制作を「最後の学生プ ロジェクト」であり、「最初の本格的なプロ ジェクト」としてとらえるように教えてい ます。多くの場合、卒業制作は建築家の方向 性を決定づける大切なものですが、私の場 合も例外ではありません。現代の建築法と 伝統的な建築技術との関係性や、気候や天 候の問題など、私が今もなお研究している 課題の多くは、このプロジェクトにも見出 すことができます。

そして今では、国家的に重要な建築物に取り 組んでおり、「人々の創造性を高め、自分たち の未来を自分たちの手で切り開こうとする 人々を後押しする建物」が必要だと発言され ています。コミュニティや国づくりにおける 建築の役割について詳しく教えてください。

私は共同作業としての建築に興味がありま す。ベナンの国会議事堂のようなプロジェ クトでは、その共同作業には、国と向き合 い、歴史だけでなく未来について考えることも伴います。2 公共の建造物の場合、ただ 単にシェルターとしての建物を作ればいい のではありません。つまり、民主的な未来の シンボルとなる建築を期待されているので す。建物の形状は、アフリカの民主主義の歴 史を参考にしています。伝統的にこの地で は、木の下や集落の中央の広場が集会や統 治の場となっていました。同プロジェクト では、この国の植民地時代以前の歴史に言 及することが重要だと考えたのです。

アフリカ大陸では、公共建物に植民地時代の さまざまな時代のレガシーが見事に埋め込ま れていますよね。そのような記憶をどのよう に扱っていますか?

植民地支配が引き起こした被害のひとつ は、大陸の資源を無造作に採取したこと。建 築という観点でいえば、建物と知識の分離 が生じました。というのは、支配者は構造物 を建てただけで、現地の文化や伝統的な建 築技術、住民とは関わりを持たなかったの です。そのため、建築は企業や政府、機関の ためのものであり、一般の人には関係のな いものだと今でも考えられています。現在 は野外建築パークに再建されている、ジャ ン・プルーヴェがアフリカに量産した住宅 プロジェクト「メゾン・トロピカル」もその 一例です。プルーヴェが地元民と協調して 建設をしていたら、彼の建築はアフリカ大 陸の遺産となり永続的な影響を与えたかも しれません。さらに、人々との感情的なつな がりをもたらせた可能性もありますよね。 私は地元の人々と共鳴する建築を作りたい のです。そして今、ヨーロッパ中心の世界観 から、先住民の伝統的な建築を大切にする 考え方へのシフトが進んでいるのです。

(1) ケレがガンドのために学校を建てようとしたのは、自分の比較的恵まれた生い立ちへの感謝の表れだ。村長の息子である彼は、同世代の子どもたちの中で唯一学校に通っていた。
(2) 市民が政治家と同じ空間を共有することを促す民主主義の象徴として、ケレは国会議事堂の傍らに大きな公園を設計した。

協調的なアプローチを確保するために、どの ような方法を用いていますか? 特に、いわゆる“きちんとした”建築図面が準備できな かったり、コミュニケーションのためのツー ルが不十分であったりする環境下で。

ガンドのようなコミュニティで仕事をする ときは、地元固有の文化を参照するという行為が大切です。また、現場でのコミュニ ケーションには模型を使用します。よりリアルなので。図面での表現には限界があり ます。あくまでも完成予想図ですから。もし、紙の上のアイデアだけでより良い世界 を作ることができるなら、人々が先見性の ある計画を立てたアフリカは、地球上でもっとも発展した場所になっているはずで す。図面以外の方法を考える必要があるのです。その点、模型は便利です。模型には精 神的な存在感があり、人々はそれを見て、 触って、空間的に理解することができます。

建築材料として土を使うことが多いですよ ね。サステナビリティへのアプローチについ てお聞かせください。

私は一時的な流行としてのサステナビリ ティには興味がありません。3 それよりも、 サステナビリティが社会経済や気候的条 件、人々の生活様式とどのように関連しているかに興味があります。またサステイナビリティとは、素材の革新的な使い方を見 つけることでもあります。たとえば、ユーカ リの木。これは乾いたブルキナファソの地 に生育する成長の早い木材で、一般的には 足場材や薪として使われています。しかし ユーカリ材には優れた耐久性があるので、 建築資材にも十分に適していると考えまし た。私がいつも考えているのは、その状況に 則した実践的なサステナビリティです。「持 続可能な建物」とは、「耐久性のある建物」。 人を包み込み、喜びと快適さを提供するも のなのです。

あなたは、建築におけるユートピア主義の重要性を強調しています。特に危機的な状況下では、現状を超えて想像することが求められ る、とおっしゃっていますね。実際にはどういうことでしょうか?

建築にとって、ユートピアは非常に大切です。ユートピアとは、より良い、より公平な世界を想像したり、夢を見たりする能力のこと。ベナンの国会議事堂のようなプロ ジェクトは、私たちのユートピア的思考の 表れです。私たちは、プロジェクトに着手す る瞬間からこの考え方を取り入れます。そ して、どうしたらそのプロジェクトが「私た ちの向上心を促進させる原動力になるだろ うか?」と問いかけます。偉業を成し遂げる ためには、ユートピア的なビジョンを抱く 必要があるのです。

よく「アフリカ建築」という言い回しを聞きま すが、そのようなものがあると思いますか?

そのように制限して考えることは危険で す。アフリカの建築家として、型にはめら れることに抵抗しなければなりません。パターンや形はもちろん建築の一部ですが、 これらは大陸の地域ごとに違いますよね?  建築は、気候、地域の資源、建築技術、社 会経済的な背景とどのように関連している か、現場ごとに判断するのが一番です。もち ろん、私はアフリカ大陸の建築というもの を信じています。つまり、人々にインスピ レーションを与え、アフリカ大陸に対する ポジティブな印象を与える建築こそがアフ リカの建築です。アフリカ大陸の建築はい たってシンプル。効率と国民を中心に考え た建築なのです。

(3) ケレのサステナビリティに対する考え方は、特定の手法や資材の使用を禁止するものではない。土地固有の建材を使うことや、厳しい暑さにも対応できるよう建物そのものに冷却する力が備わっているかといった、その土地ならではの気候への配慮も重要な要素だと考えている。

(3) ケレのサステナビリティに対する考え方は、特定の手法や資材の使用を禁止するものではない。土地固有の建材を使うことや、厳しい暑さにも対応できるよう建物そのものに冷却する力が備わっているかといった、その土地ならではの気候への配慮も重要な要素だと考えている。

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こちらの記事は Kinfolk Volume 34 に掲載されています

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