• お買い物カゴに商品がありません。
cart chevron-down close-disc
:

Alison Roman
アリソン・ローマン

インターネット界のテイストメーカー。
Words by HANNAH MARRIOTT. Photos by KATIE MCCURDY. Styling by CAITLIN BURKE. Hair by NATALIE JONES. Makeup by JUSTINE SWEETMAN.

  • Food
  • Volume 45

インターネット界のテイストメーカー。
Words by HANNAH MARRIOTT. Photos by KATIE MCCURDY. Styling by CAITLIN BURKE. Hair by NATALIE JONES. Makeup by JUSTINE SWEETMAN.

#THESTEW、#THEPASTA、#THECOOKIESといったハッシュタグで大注目を集め、パンデミック中に一躍有名になったアリソン・ローマンのレシピ。オンラインで一大帝国を築いた彼女が次に目を向けているのは、オフラインの生活だ。

料理研究家のアリソン・ローマンと食について話すという行為は、ファッションデザイナーに今シーズン、なぜデニムが気になるのか、という質問をするのと似ている。ベストセラーになった料理本の著者であるローマンには、時代を先読みする直感的な才能があるからだ。彼女のレシピは頻繁にバズるため、Instagram時代のナイジェラ・ローソンと呼ばれている。そして最新レシピを待ちわびる、大勢の熱烈な支持者を持つ。新刊『SweetEnough(原題)』の発売を控えたいまはちょうど「とてもモノクロームなフェーズ」にいると語る。「ハーブを使わず、最小限の材料で何ができるか試しているのです。簡素な料理を作りたい気分です」

このようなアプローチは、世間の憧れの的でありながら気取らない雰囲気を持つローマンらしい。気軽におもてなしができるように、レシピでも不必要なステップを省くことが多い。たとえばサラダの場合、(クリーム状のドレッシングで乳化させる必要がない限り)ドレッシングの材料を直接サラダにふりかけることを勧めているし、マティーニはあらかじめ混ぜたものをカラフェに作っておく。ローマン自身も、気楽にもてなすのが好きだと話す。「ゲストをがっかりさせることだけは絶対にしたくありませんが、圧倒させるほどやりすぎるタイプではありません。テーブルセッティングはしません」

初めて出した料理本、『DiningIn』(2017年)と2冊目の『NothingFancy』(2019年)からわかるように、ローマンのレシピは香りが強くピリッとした味付けが多い。とりわけ塩、レモン、ディル、エシャロットを多用し、何にでもアンチョビを入れることで有名だ。レシピ作りは自身が好きな料理をベースに、食材の組み合わせを深く考えながら開発しているそうだ。しかしなぜレシピが人々の心に響いているのかはわからないという。「本能と直感を頼りに料理をします」。そして大切なのは「これは私が好きな味?私らしい?と自問すること」。自分が好きであれば他にも同じような好みを持つ人がいるかもしれない、という考え方だ。たとえすべての人に絶賛されなくても「一部の人にすごく好きになってもらえるだけで、エキサイティングなことだと思っています」と話す。

この取材をZoomで行ったとき、ローマンはブルックリンのアパートにいた。彼女の背後には観葉植物、白く塗られた梁、むき出しのレンガが映っている。YouTubeの料理シリーズ『HomeMovies』の視聴者にはおなじみの背景だ。しかしローマン自身は髪を染めずに地毛を伸ばしているためか、動画の雰囲気とは少し違って見える。「ちょっとしたアイデンティティの危機」を迎えていることを認め、最近は髪色以外にも変わりつつあることがあると話してくれた。「初めて本を出した当時、私はニューヨークで暮らす32歳の独身女性でした」とローマンは言う。昨年9月にプロデューサーのマックス・カンターと結婚し、現在はブルックリンとニューヨーク北部を行き来する生活を送っている。しかしこの2拠点生活が、続かなくなるかもしれないというのだ。その理由はブルックリンのアパートが、朝5時には外でトラックがクラクションを鳴らしているような騒々しい場所にあること。「たぶん、この家にずっとは住まないでしょう。若者が住むようなアパートですし、私はもう若くないから!」。ローマンは、ミレニアル世代や都会生活者が多い彼女のフォロワーたちと一緒に成長してきたと感じている。「視聴者の皆さんの生活も変わったでしょう。このことはよく考えます。自分の成長が世間の人々に見られているというのは興味深いことです」

より大きな変化は、かつて「インターネット界で極めて有名な料理研究家」として認識されていたローマンが、オフラインでの活動にますます興味を持つようになったことだろう。そのひとつの例が2023年9月に、マンハッタンから車で3時間のニューヨーク州北部にある集落、ブルームヴィルにグローサリーストアを開店したことだ。出店を計画しているとき、店専用のInstagramのアカウントが必要かどうか悩み、最終的にはアカウントを開設したそうだ。とはいえ、以前よりもSNSに登場する頻度はかなり減っている。その理由は、自分を偽ることができないからだと語る。「機嫌が悪かったり、嫌なことがあったり、悲しいことがあったり、不安なことがあったりすると、SNSを更新するテンションになれません。元気なフリをしたくないので、あえて黙っています。だからそういうときは何も投稿しないのです」

オンラインでこれほどの知名度を誇る人物が、こぢんまりとした実店舗を構えるというのは意外に感じるかもしれない。けれどもローマンは「必然的な次のステップ」だったという。ニューヨーク北部で住居用の物件を探していたとき、かつて地元で愛されていたレストランだった多目的ビルが空いていることを偶然知った。厨房で働いた経験から、レストラン経営の厳しさをよく知っていたため、レストランを始めたいとは思ったことがなかった。しかし、自分の店を持つこと自体は正しいことのように感じた。「それまでは、すべてが刹那的だと感じていました。けれども物理的な店舗には現実的な目的と機能があります。店というものは、その土地で生きて呼吸しているような存在です」

「自分ひとりでできることは限界に達していたと思います。自分自身を表に出し、自分自身についてたくさん語る、ということをずいぶんやりました。私が主役でないことを新しく始めるのは、非常にワクワクしました。だから『アリソン・ローマンのカントリーストア』のような店には絶対にしたくなかった。ここはFirstBloomという名前の食料品店であり、私がたまたまオーナーというわけです」

FirstBloomでは、厳選された商品のみを扱っている。果物や野菜、とびきりおいしい地元産ヨーグルトなど、この地域で作られたものもある。日常使いの良質な食料品を求める人たちだけでなく、プロ使用の高級食材や珍しいものを試してみたいという客層にもアピールできるような価格帯とラインナップにしている。たとえば18ドルのイタリア製のブロンズダイスのパスタもあれば、4ドルのディ・チェコも取り扱っている。「私は家でディ・チェコを食べているので」。さらにアンチョビに関してもおつまみ用の高級品もあれば、料理用の安いタイプもある。そして早々とFirstBloomには、ローマンとは別の人格が生まれたという。「私自身よりも店のほうがまじめなタイプです。人々に奉仕するための存在ですから。売りたいものを売るのではなく、必要なものを売っています」と話す。「私は食料品を売り、買った人たちはその食材で料理をします」。このように、もっとも基本的なかたちで人々の生活に役立っていることに喜びを覚えているという。

ローマンはこの店が地域のコミュニティを育むことを願っている。地元の人たちから温かく迎えてもらえたと感じ、またニューヨーク北部で急成長している料理文化に自身の感性が合っているようだと話す。「何かをやりたいというアイデアがあれば実行に移すことができますし、ここの人たちはそれを応援し盛り上げてくれます」

この物件を見つけたのは2020年、パンデミックの真っ只中だった。そしてそれは、ローマンにとっては、とくに苦悩の時期であった。ローマンのレシピは、外食ができず自炊が唯一のオプションだった時代に新たなファン層を獲得し、さらなる名声を得た。しかしあるインタビューでローマンが、近藤麻理恵やクリッシー・テイゲンがオリジナルのキッチングッズなどを販売していることを非難したことが、大問題に発展する。白人女性であるローマンが、アジア系女性の近藤とテイゲンを攻撃する発言をしたことにより、食品業界に根づいた構造的人種差別が浮き彫りになったのだ。その後、ローマンはコラムニストとして働く『ニューヨークタイムズ』紙の料理コラムを一時休職し、SNSを通じてふたりに謝罪。それを受け、テイゲンは料理コラムへの復職を呼びかけたが、数カ月後、ローマンは『ニューヨークタイムズ』紙には復帰しないことを発表した。コラムニストや料理研究家としての将来が不透明になってしまったが、一方で、店舗経営はより安定しているように感じた。「店の存在は自分でコントロールできます。これが将来への希望でした」

(上) KALLMEYERのジャケットとシャツ、FLASH JEWELLERYのイヤリング、DINOSAUR DESIGNSのリング(およびローマンの私物)
(中央) ALTUZARRAのセーター
(下) ROSIE ASSOULINのトップスとスカート、THE ROWのシューズ、INOSAUR DESIGNSのジュエリー

「元気なフリをしたくないので、そういうときは何も投稿しないのです」

それ以来、ローマンは「ちっぽけなメディア会社」と称するビジネスを展開している。ニュースレターの購読者は28万4000人を超えている(3冊目の料理本『SweetEnough』のレシピをモチーフにしたNoraEphron’sBreadPuddingと刺繍されたキャップなど、オリジナルグッズもすぐに完売になるほど、熱心な購読者が多い)。他にもポッドキャスト『SolicitedAdvice』や動画シリーズの『HomeMovies』を発信している。ローマンは、このような活動をインターネットの「平和なコーナー」で行っていると表現する。「私はいま、本当に良い環境にいると感じています。ニュースレターを発行するのはとても楽しいです。インターネットの活動は虚空に向かって叫んでいるような気分になることが多々ありますが、ニュースレターは、私の仕事に興味を持ってくれている人たちとコミュニケーションをとる最善の方法だと感じています」

カリフォルニア州のサンフェルナンドバレーで育ったローマン。もっとも古い食の記憶は、ユダヤ人である父親が作ってくれたマッツァ・ブライ(マッツァと呼ばれるクラッカーと卵の炒め物)や、ユダヤ料理のデリで一緒に食事したこと。そして母親がマスのフィレやアスパラガスの蒸し煮などのカリフォルニア料理を作ってくれたことだ。ローマンは幼少期に、みんなで集まって食べることは幸せなことだと学んだ、とかつて言及している。

19歳のとき、大学を中退したローマンは、ロサンゼルスの有名レストランSonaでパティシエとして働き始めた。この職に就いてすぐさま、人生の進むべき道を見つけたと確信した。「これは自分の得意分野だと思いました。当時はまだ技術がありませんでしたが、きっと将来的にすごく上達するのがわかりました。本当に夢中になれるものを見つけたからこそ、自信があったのだと思います」。その後、ニューヨークに移り住み、ベーカリーMomofukuMilkBarが文化的ピークを迎えていた頃、そこで働き始めた。1そして料理雑誌『ボナペティ』でメディア界のスターとして、そしてインターネット界の有名人としてブレイクした。そして2018年、『ニューヨークタイムズ』紙のコラムニストになると、ローマンのレシピは独自のハッシュタグ(#TheCookies、#ThePasta、#TheStew)が生まれるほど人気になった。しかし、レシピの数々がバズっていたときでさえ、その成功は一時的なものだという不安があった。「レシピが話題になるたびに、これが最後だと思いました。長続きするはずないと。いまは、1つのレシピだけに注目が集中するのではなく、長く着実に輝かしいキャリアを築きたいです。『アリソン・ローマンのレシピなら絶対おいしいよね』というふうに思われる存在になりたいです。世界を席巻するような一発を狙うよりもね」

そのために、さまざまな計画を手がけており、最近は新しい料理本に取り組んでいるそうだ。最終的なプランは、一種の帝国を築き上げることだと話す。そして食料品店がその一翼を担うことを願っている。「前からFirstBloomが実店舗を超えた存在になることを思い描いていました。それがどういうことになるのかはまだわからないけれど、いくつかアイデアはあります」

自信を失うこともあるが(「私はそういう性格なのです」)、直感を信じ、自分の好きな料理を作り続け、オーディエンスがそれを受け入れてくれることを信じようと決めたという。レシピを作る際、不必要に高級食材を使わないように気を使う以外、オーディエンスに対して責任を感じていないようだ。「これだけ多くの人の中から私を選んでフォローしてくれることはとても嬉しいです。でも内容が楽しくないと思われたとしても、私に責任があるとは思いません。『こんなレシピは嫌い』と言われたら、私は『じゃあ、作らなくていいよ』と反応します」

すべての活動を通して、何よりも自分らしくあることを心がけているローマン。「本の宣伝で訪れた書店や、人生のあらゆる場面で、実際に会った方々に言われて一番嬉しいのは『想像どおりの人ですね』という言葉です」と微笑んだ。

(1)キャリア初期段階でMomofukuMilkBar(現在の店名はMilkBar)で職を得たことは恵まれたことだった。当ベーカリーは、数々の話題でインターネットを賑わした。たとえば、看板メニューの「クラックパイ」(2010年当時44ドル)について『ロサンゼルスタイムズ』紙は「ニューヨークを席巻した」と評した。コカインを意味するクラックという名前がドラッグの依存症を軽んじているとの批判を受け、2019年に「ミルクバーパイ」と改名された。

(1)キャリア初期段階でMomofukuMilkBar(現在の店名はMilkBar)で職を得たことは恵まれたことだった。当ベーカリーは、数々の話題でインターネットを賑わした。たとえば、看板メニューの「クラックパイ」(2010年当時44ドル)について『ロサンゼルスタイムズ』紙は「ニューヨークを席巻した」と評した。コカインを意味するクラックという名前がドラッグの依存症を軽んじているとの批判を受け、2019年に「ミルクバーパイ」と改名された。

a

こちらの記事は Kinfolk Volume 45 に掲載されています

購入する

Kinfolk.jpは、利便性向上や閲覧の追跡のためにクッキー(cookie)を使用しています。詳細については、当社のクッキーポリシーをご覧ください。当サイトの条件に同意し、閲覧を続けるには「同意する」ボタンを押してください。