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  • Arts & Culture
  • Volume 34

重すぎる想い

セーターの呪いの不思議な歴史。 Words by Precious Adesina. Photograph by Christian Heikoop.

鏡を割る、塩をこぼす、はしごの下を通るな ど、迷信的な行為はたくさんある。編み物の世界で恐れられているのは“セーターの呪い”。 これは“ラブセーターの呪い”や“ボーイフレ ンドセーターの呪い”とも呼ばれ、相手のためにセーターを編むと、それがきっかけでふたりの関係がダメになってしまうというジンク ス。編み物愛好家にとって、これは単なる迷信 ではない。友人の体験談やインターネット掲 示板などでもよく見かける現象なのだ。

パートナーにセーターを編むという行為は古くから行われてきた。2007年に出版された 編み物に関する書籍『Son of Stitch ‘n Bitch』のなかで、著者のデビー・ストーラーは「(19 世 紀の)オランダでは、結婚式の日取りが決まった日に、花嫁が婚約者のためにセーターを編み始めるのが伝統だった」と書いている。本書では当時のイギリスにおける同様の風習についても言及し「漁師の未来の花嫁は、婚約するやいなや、この特別なセーターを編み始めた」 と書いてある。結婚前に相手のためにセー ターを編むと関係が悪化すると言われるようになったのはごく最近のこと。インターネット掲示板に悲痛なメッセージがあふれるようになったこの10 年間でそのような迷信が広まったのだ。「彼のセーターを途中まで編んだところでフラレてしまいました。今の私に 残っているのは半分のセーターだけ。これは 間違いなく呪いだ」。これは彼氏のクリスマスプレゼントにハリー・ポッターのセーターを編んだというReddit ユーザーのコメント。

このような迷信は編み物に限ったことでは ない。ポーツマス大学の応用言語学・翻訳学 の上級講師であるスティーブン・クラッブによると、その分野では恋人の名前のタトゥー を入れると別れてしまうとされているとのこ と。「ロンドンのレーザークリニックが行った5 年間の調査によると、来院者がもっとも後 悔している(そしてもっとも頻繁に除去され ている)タトゥーは、別れた恋人の名前だった」と非営利サイトのThe Conversationに書 いている。

このような行為が悪い結末をもたらす明ら かな理由は、時期尚早な重すぎる行為が、ふた りの関係を見直すきっかけとなるからだ。 ピューリッツァー賞受賞作家のアリソン・ ルーリーは、かつて『ニューヨーカー』誌にこう記している。「手編みのセーターは、厚手で 伸縮性に富み、着心地がいいのが特徴。それは、編んだ女性が相手を包み込みたいと思っていることを示しています。手編みの服をプレゼントするということは、その男性との将来を真剣に考えているということ。もし相手にその準備ができていなければ、その贈り物は彼を困惑させ、遠ざけてしまうかもしれません」

こういったジンクスについて考えたとき最終的に言えるのは、時間は味方ではない、ということ。セーターは完成までに数カ月かかり、 タトゥーは一生モノ。その間にかなりの割合の人間関係がこじれてしまうのも無理はない。 ということで、最初はマフラーから始めて、 徐々にレベルを上げていくのが得策だろう。

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こちらの記事は Kinfolk Volume 34 に掲載されています

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